2022.05.12 08:45
何げない日常を短歌に…初歌集が異例のヒット 四万十市出身の岡本真帆さん「一見なくても生きていけるものを大切に」
「短歌を作るのは大変だけど、すごく楽しい」と話す岡本真帆さん(東京都内)
岡本さんが本格的に短歌を作るようになったのは2014年。書店で手にした歌集がきっかけだった。同世代の歌人がインターネット上で作品を披露するのを見て、見よう見まねで始めたという。
当時は広告制作会社のコピーライターで、仕事との共通点を感じた。さらに、短歌の「自由な世界観にも魅了された」。
日常の中で「これって短歌にできそう」と感じると、スマートフォンにメモする。
例えば、友人とタクシーに乗り合わせて目的地に向かう途中。おしゃべりに花が咲く中、運転手は黙ってハンドルを握っている。後日、メモを見返し「気持ちいいリズムでバチッとくるまで、こねこねしながら」31文字にまとめていく。
にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手
仕事に追われるとメモを取る余裕がなくなり、1年近いブランクもあったという。そのため、モットーは「短歌を作れる心の余裕がある自分でいたい」。
平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ
好きな服でお出かけをするガラスというガラスに背筋を伸ばして映る
歌集は、交流サイト(SNS)などでの発表を目にした出版社から持ち掛けられた。15年から今年1月までの269首を載せている。
タイトルは東京湾の水上バスから取った。急ぐわけでもなく、乗らなくてもいい交通機関。芸術や文化も、日々の暮らしには必要ない。だが、人の心を豊かにさせる。
「私は、一見なくても生きていけるものを大切にしたい。この本が誰かの、そういう存在になれたら」
岡本さんは四万十川のほとりで育った。企画や広告の仕事に憧れがあり「ずっと都会に出たいと思っていた」。大学進学を機に上京し、現在は都内で作家をPRする会社で働いている。
この街はどこも消毒済みだから手書きの誤字がとてもうれしい
コロナ禍で生活は一変。帰省もできず、家族には2年以上会えていない。仕事でオンラインが定着したこともあり、「家族のそばで生活したい」と、近く拠点を地元に移すことを決めた。
これまで、高知の短歌はほとんど作っていなかった。「新しい生活の中で、どんなものができるのか。自分でも楽しみです」。笑顔で語っていた。
税別1700円。問い合わせはナナロク社(03・5749・4976)へ。(浜崎達朗)