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2022.04.22 08:00

【香南市収賄】解明不十分で納得できぬ

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 判決でも真相に近づくことはなかった。これで幕引きでは、市民は納得することはできない。
 香南市発注工事を巡る入札情報漏えい事件で、あっせん収賄罪などに問われた元市議の志磨村公夫被告に対し、高知地裁は執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。元市議に情報を漏らしたとする「氏名不詳の市職員」が焦点になっていたが、特定されないまま司法判断が下された。
 判決によると、元市議は2020年12月、市営住宅の解体工事に関し、最低制限価格に近い額を「市職員」から聞き出し、元建設会社社長に落札させ、その見返りとして商品券を受け取った。
 元市議は捜査段階で「市住宅管財課長から金額を聞いた」と供述していたが、その後、清藤真司市長(当時)から聞いたと供述が変遷。これを受けて高知地検は課長の起訴を取り消し、情報漏えい者を「氏名不詳の市職員」とした。
 清藤氏は関与を否定し続けているが、贈賄側の元社長から献金を受けていたことが分かり、「道義的責任を取る」として、昨年末に市長を辞職している。
 元市議は昨年12月の初公判で、清藤氏の名前を涙ながらに挙げた。そのような劇場型の展開も含めて、異例ずくめの事件と言える。
 市課長を逮捕、起訴しながら、裁判前に起訴を取り消した捜査機関の大失態が、混乱の始まりだ。供述頼みで捜査の甘さを露呈したにもかかわらず、県警や地検からは自省的なコメントは聞こえてこない。それで県民の信頼を得られるだろうか。
 氏名不詳のまま公判が進むことも異例だった。あっせん収賄罪は、公務員が他の公務員に職務上の不正行為をさせるなどして、賄賂を受け取ったり要求したりする罪だ。働き掛けの行為が核心であり、立証する上で、情報漏えい者が分からないことは足かせの一つになる。
 その中で、検察側は氏名不詳のまま通し、高知地裁は有罪判決を下した。識者の中には「立証のハードルが下がった。今後、情報漏えい者が不明でも立件されていく恐れがある」と、あしき前例になることを懸念する声も出ている。
 情報漏えい者を巡る元市議の供述は、信ぴょう性が問われる状況であり、特定する難しさはあったかもしれない。だが、検察側は清藤氏の証人尋問も行わず、「不特定のままで立証は十分」とした。大きな失態を犯した案件だけに、元市議を有罪に持ち込むことが最優先だったのではないか。
 地裁は今回、元市議に有罪判決を下したが、元市議側は公判で罪を認めて、執行猶予付きの判決を求めていた。一方、贈賄側の元社長は「漏えい者の特定が不十分」として公訴棄却を求めている。被告の主張が異なっており、地裁の判断が改めて注目される。
 漏えい者が分からないということは、市役所全体に疑いの目が向けられるということだ。事実解明に引き続き取り組まなくてはならない。

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