2022.04.02 08:00
【停戦交渉】人道危機の解消を急げ
南東部の要衝マリウポリは、ロシア軍による包囲攻撃が続いている。数千人が死亡し、多くの市民が閉じ込められたままだ。国際赤十字の支援物資倉庫の被弾も伝えられる。
また、事実上の封鎖状態に置かれた北部地域の都市でも、負傷者の市街搬送や医療品の搬入ができないと人権団体が訴えている。
これまでの停戦交渉でロシアは首都キーウ(キエフ)での軍事作戦の大幅縮小を発表した。しかし部隊の一部は撤収したものの、大部分がとどまったままのようだ。攻撃縮小には懐疑的な見方も出ている。
侵攻前に軍事演習の終了と撤収を発表しながら侵攻した経緯がある。キーウ制圧を失敗し、立て直しへの再配置との分析も示される。ロシアは軍事縮小を行動で示すことだ。
一方、ロシア軍はマリウポリを含む東部2州へ戦力を増強し完全制圧をもくろむ。クリミア半島と同様に強制編入する可能性が指摘される。
ウクライナ側は停戦へ、関係国による安全保障の枠組み創設と引き換えに、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する「中立化」方針を示した。進展の兆しも見られる停戦交渉だが、編入が強行されれば交渉の停滞は避けられなくなる。危機をあおる行為は許されない。
ロシアは、マリウポリからウクライナ側へ市民を退避させる人道回廊を設ける考えを示している。回廊の開設は、これまでにもロシアが一方的に発表したことがある。だが、市民の意向にかかわらず主にロシア側へ誘導する姿勢だったことで、完全には機能しなかった。
今回は国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と国際赤十字が直接関与するようだ。民間施設への攻撃さえ辞さないロシアではあるが、市民の自発的な退避と人道支援活動を妨げてはならない。
一方、ロシア軍はチェルノブイリ原発から完全撤退し、ウクライナ側が管理を取り戻した。放射性物質の汚染が拡大した懸念があり、改めて状況を把握する必要がある。厳格な管理下に置くのは当然で、そもそも原子力施設攻撃は言語道断だ。
日本は米欧と共に制裁を打ち出してきたが、極東サハリンの石油天然ガス事業からは撤退しない方針を示した。エネルギーをロシアに頼る部分がある以上、全てを断ち切るのは難しい。そうであれば、誤ったメッセージとならないようにその立場を十分に説明することが基本だ。
米欧企業は撤退や新規投資の停止を発表している。先の先進7カ国(G7)首脳会合は、制裁逃れを防ぐために緊密に協力することを確認した。各国が対ロ圧力を強める中、結束を乱してはならない。制裁の実効性を薄めず、国内への影響も軽減する対応を探る必要がある。