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高知新聞PLUSの活用法

2022.03.29 08:00

【やじ排除は違法】言論封殺を許さぬ判決だ

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 表現の自由は重要な権利である。とりわけ公共的、政治的事項に関しては特に尊重されるべきだ。こういう極めて意義深く、分かりやすい判断が示された。
 安倍晋三首相(当時)の街頭演説中にやじを飛ばし、北海道警の警察官に排除された男女2人が道に損害賠償を求めた訴訟の札幌地裁判決は、排除の違法性を認め、計88万円の賠償を命じた。
 排除行為は憲法で保障される表現の自由を侵害したと、憲法の観点から言及している。原告らが「表現の自由の侵害を正面から認めた」と評価するのももっともだろう。
 被告の道側は、原告がほかの聴衆から危害を受けたり、聴衆に危害を加えたりする恐れがあったと主張していた。しかし判決は、当時の状況について、多くの場面で生命もしくは身体に危険を及ぼす恐れのある危険な事態があったとは言えず、警察官の行為は違法だと認定した。当時撮影された動画がこうした判断に役立ったようだ。
 その上で判決は、「安倍辞めろ」「増税反対」などの声を上げたことを、一部言い方は上品さに欠けるとしつつも、公共的、政治的事項に関する表現行為と位置付けた。
 そうした表現行為にもかかわらず、警察官は安倍氏の街頭演説にそぐわないと判断して制限しようとしたと推認する。しかし、その表現行為は差別の意識や憎悪を誘発せず、演説を不可能にさせるものではないとの見方を示した。
 また、今回の警察による制限は、公共の福祉からやむを得ないと解することは困難だとも言及した。動画で当時の状況が明確になっていることも、そう言える背景にあるだろう。何より、「公共の福祉」を都合よく使うことで、基本的人権を制約しようとすることへの警戒感を強く打ち出したと受け止められる。
 憲法が保障する表現の自由は基本的人権であり、民主主義的社会を基礎付ける重要な権利にほかならない。それを制約することが、その時々の判断で行われてはならない。
 警察官の行為により表現の自由が侵害されたと認定されたことを重く受け止める必要がある。犯罪予防のため危険行為を制止することは大切だが、恣意(しい)的に使われては問題をはらむ。警備の在り方を見つめ直すことが欠かせない。
 安倍政権下では忖度(そんたく)が取り沙汰された。「桜を見る会」の招待者名簿は早々にシュレッダーにかけられ、森友学園の決裁文書は改ざんされた。そうした風潮がこの事案に反映されているかもしれない。これでは健全な市民社会は築けなくなる。
 海外に目を移せば、ロシアではデモを取り締まり、批判的な言論を圧殺して、国内の反戦世論を徹底的に抑え込んでいる。ミャンマー、香港では民主派が弾圧される。
 権力側が事態を自らに都合のいいように進めようとするとき、言論は封殺され、民意はかき消される。権利の後退が何を招くか。近年の国際情勢から学ぶことも必要だ。

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