2022.03.25 08:00
【5千円支給案】優先されるべき政策か
今夏には参院選が行われる。国政選挙が近づくたび、なぜ現金給付策が出てくるのか。5千円という額を1回限り支給することで、どれほどの生活支援につながるのか。さまざまな疑問が尽きない。
政策効果を明確に説明できないのなら、5千円支給案は撤回するべきだろう。
自民党の茂木敏充、公明党の石井啓一両幹事長が岸田文雄首相に検討を要望した。岸田首相は参院予算委員会の質疑で「経済や生活の状況全体を見る中で、必要かどうかよく検討していきたい」と述べた。
支給対象は約2600万人で、事業規模は事務経費を含めて2千億円程度となる見通しだ。給付の必要性や公平性そのものに首をかしげざるを得ない。
そもそも年金の減額は、2021年度から現役世代の賃金変動をより重視するようになった年金制度改革が影響している。18~20年度の現役世代の賃金水準が低下したことに伴い、年金の支給額は4月分から0・4%引き下げられる。
制度改革は、年金制度を支える現役世代との公平性を確保して年金財政を長期的に維持する目的だった。減額の「穴埋め」を名目にした年金受給者のみへの給付は、年代間の公平性を重視した制度改革の目的にも逆行しよう。
与党は原材料高や円安などに伴う物価上昇への対応策とも主張する。検討段階から給付の目的自体が定まっていないのではないか。
財源は21年度予算のコロナ対策予備費から充てる想定という。国会で審議する必要がなく、閣議決定だけで支出できる。政策の必要性が議論されないまま、巨額の国費が支出されることになりかねない。政府・与党の姿勢に「給付ありき」の印象が拭えない。
減額された4、5月分の年金は6月に受け取ることになる。まさに参院選の直前だ。年金生活者の反発を5千円の支給で和らげ、参院選を有利に戦いたい。自民党幹部もそんな思惑を隠さない。野党が「選挙目当てのばらまき」と批判を強めるのも当然と言えよう。
有権者も厳しい目を向けている。今月19、20両日に行われた世論調査では、5千円支給案を「適切だとは思わない」という回答が66%に上った。自民党、公明党それぞれの支持層でも、過半数に達した。有権者が求めている政策でないことは明らかだ。
18歳以下の子どもがいる世帯のほか、住民税非課税世帯と急激に家計が悪化した世帯などに対する給付制度は既にある。本当に生活に窮している人への支援策は、選挙と関わりなく充実させなければならない。
必要性のある政策か、集票目的の「ばらまき」か。国民の側も政治の在り方を見定める必要がある。