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2022.03.23 08:00

【北方領土交渉】露の中断声明は筋違いだ

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 ロシア外務省が、北方領土問題を含めた日本との平和条約締結交渉を中断すると一方的に発表した。4島でのビザなし交流停止のほか、共同経済活動からも撤退するという。ウクライナ侵攻に伴う日本の経済制裁に反発した格好だ。
 経済制裁は蛮行に及んだロシアが自ら招いたと言うほかない。その責任を日本との2国間関係に転嫁させる姿勢は筋違いだろう。到底受け入れることはできない。
 日本はロシアに対し、米国など先進7カ国(G7)と歩調を合わせる形で、半導体の禁輸や貿易上の優遇措置の撤回、プーチン大統領の資産凍結といった経済制裁を科した。
 北方領土問題を抱える日本にとっても、苦渋の判断だったといってよい。制裁で両国間の関係が冷え込めば、交渉が行き詰まることは容易に想定されたからだ。
 しかし、ロシアによる侵攻は「主権と領土の一体性を尊重する」国際秩序の根幹に関わる。一般人を巻き込んだ非人道的攻撃や核兵器使用の示唆など、一線を越えたロシアの行動を看過できないのは当然だ。
 ロシアの声明は、自らの姿を直視できない、プーチン政権の現状を如実に表していよう。
 日本の制裁措置を「露骨な非友好的態度」と指摘し、平和条約交渉の打ち切りを宣言した。ロシア人の住民とのビザなし交流や1999年に始まった元島民の現地訪問などを停止。北方領土での日ロ共同経済活動からも撤退するとした。
 両国が積み重ねた友好への土台を一方的に取り払い、さらなる孤立化への道を選んだといえる。誰の目にも対ロ外交が転換期を迎えたのは明らかだろう。
 北方領土問題の解決や平和条約に向けた交渉の仕切り直しはやむを得ない。戦略の練り直しへ、これまでの交渉過程をしっかりと検証しなければなるまい。
 第2次安倍政権は2013年、首脳間で領土交渉再開に合意。経済協力をてこに交渉の糸口を探る戦略を描いた。時には過剰にも見える配慮を示してきた。
 14年にロシアがウクライナ南部のクリミア半島を強制編入した際は実効性の乏しい制裁にとどめ、16年には経済協力プランを提案。18年には1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉の加速で合意した。宣言は歯舞、色丹の「2島引き渡し」を明記しており、従来の4島返還からの重大な方針転換といえるが、国民への十分な説明はなかった。
 この間、安倍晋三元首相は首脳会談を重ね、プーチン氏との個人的信頼関係を演出したが、翻弄(ほんろう)された印象は拭えない。他国に侵攻する指導者を相手に、領土交渉の実現性を見誤ったのではないか。
 岸田文雄首相は北方領土に関し、ロシアによる「不法占拠」と表現し対ロ外交の路線変更を印象付けた。ウクライナへの攻撃が続き、交渉環境がいつ整うかは見通せないが、冷静に情勢を見極め、次の交渉に備える必要がある。

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