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2022.03.22 08:00

【核共有政策】廃絶への潮流見失うな

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 米国の核兵器を配備し共同で運用する「核共有政策」や、国是である非核三原則の見直しを議論すべきだとする声が国内の政界で拡大している。岸田文雄首相は政府での検討を否定する一方、各党の議論は容認する姿勢を示した。
 ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領が核兵器使用を示唆したことがきっかけだった。しかし、「目には目を」の単純な発想では核軍拡を招くだけだろう。唯一の戦争被爆国である日本の政治家として見識が問われる。
 核共有政策は1950年代、北大西洋条約機構(NATO)が抑止力を高めようと導入した。ドイツなどの同盟国に配備された米国の核兵器を戦闘機などで共同運用する。使用には米側の同意が必要になる。
 議論の口火を切ったのは安倍晋三元首相だった。テレビ番組で「世界の安全がどのように守られているのか。現実の議論をタブー視してはならない」と発言した。これを受け、自民党や日本維新の会で同様の発言が相次ぐ。
 ロシアによる国際秩序への挑戦、ウクライナの現実的な危機に、冷静に対処すべき局面だろう。にもかかわらず、プーチン氏の脅しにあおられ、浮足立っているように映る。
 核共有政策は従来の「核の傘」に加え、国内への核兵器配備で抑止力の上乗せを図る狙いだろう。だが、安全保障を抑止力だけで判断するわけにはいかない。
 専門家には核配備で、かえって先制攻撃の的になるとの懸念もある。何より戦後、国民が目指してきた国の在り方や国際的な核廃絶への潮流を見失っているのではないか。
 日本は、憲法の平和主義に基づいて核兵器を「持たず」「つくらず」「持ち込ませず」の非核三原則を貫いてきた。それは単なる理想だけではなく、広島や長崎で核兵器の非人道性を身に染みて体験したからこそだ。
 長年にわたる被爆者の訴えは国際世論を高め、核兵器を非合法化する核兵器禁止条約へとつながった。核共有議論は抑止力論に偏るあまり、被爆者らが積み重ねてきた「ノー・モア・ヒバクシャ」の願い、非核三原則を踏みにじる。国際社会でも唯一の被爆国としての説得力を失いかねない。
 ロシアが一方的に緊張感を高め、核拡散防止条約(NPT)体制の限界はあらわになっている。だからこそ、被爆国として核兵器廃絶の加速に努める責務がある。
 ウクライナ侵攻の余波は核共有問題だけではない。自民党を中心にまたぞろ、原発再稼働を急ぐ動きが活発になっている。
 だが、東京電力福島第1原発事故の教訓は「安全」に尽きる。原油や天然ガス高騰の影響は懸念されるとはいえ、コスト論が優先されることは許されない。場当たり的にすぎよう。ウクライナ侵攻では原発への攻撃も現実のものになった。政策の流れをきちんと踏まえ、地に足の着いた議論を求める。

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