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2022.03.16 08:00

【広島買収事件】なお残る検察への疑念

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 2019年の参院選広島選挙区を巡る買収事件で、検察当局は受領側を一律不起訴とした当初の処分を一転させ、公選法違反(被買収)の罪で県議ら9人を在宅起訴、25人を略式起訴とした。ことし1月に「起訴相当」などとした検察審査会の議決に沿った格好だ。
 そもそも公選法は受領側も罪に問うと規定する。東京地検特捜部が現金を受け取った全員を一律不起訴にしたのは同法適用の公平性をゆがめかねず、市民感覚からもかけ離れていた。当然の結論だろう。
 特捜部は20年6月、河井克行元法相が地元議員らに現金を渡し、妻の案里氏の集票を依頼したとして河井夫妻を逮捕。東京地裁は昨年6月、地元議員ら100人に計約2870万円を配ったと認定した。
 元法相には懲役3年、追徴金130万円の実刑判決を言い渡し、後に確定。案里氏は執行猶予付きの有罪が確定し、当選無効になっている。
 一方で特捜部は、受領側のうち死亡した1人を除く全員について、容疑を認めた上で起訴猶予とした。元法相との力関係などから「受動的な立場」を考慮したという。
 これに対し、検審は金額の多寡や公職にあるかどうか、返金や寄付をしたかを基準として、35人を「起訴すべきだ」と議決した。一律不起訴に疑問符を突き付けた形だ。「金銭受領が重大な違反行為であることを見失わせる恐れがある」との指摘はまさに正論だったろう。
 検察当局は再捜査の結果、違法性を否認したとみられる9人を在宅起訴した。有罪になれば公民権停止となる。略式起訴した25人は買収を認め、いずれも議員を辞職するなどした。体調不良の1人と、検審が「不起訴不当」とした46人は改めて不起訴となった。
 東京地検は「検審の議決を踏まえて最終的な判断に至った」としつつも、一律不起訴は「妥当な処分だった」とする。そうであるなら、なぜ処分を変更したのか。説得力の乏しさは否めない。
 一律不起訴は、検察の意に沿う証言をすれば刑事責任を問わない、事実上の司法取引があったのではないかとの疑念を生じさせた。
 東京地検は否定するが、受領側の一部議員はなお、そう主張して検察を批判している。公選法が適切に運用されるためにも、検察は公判などを通じて一連の判断を丁寧に説明しなければならない。
 買収事件は、民主主義の根幹をなす選挙を金銭でゆがめる重大な問題だ。それにもかかわらず政界の危機感は乏しい。辞職や辞職願を提出した県議や市議のうち、17人は検審の判断が示された後だった。自主的な判断とは言いがたい。
 買収の原資も曖昧なままだ。自民党は河井氏側が提出した資料に基づき説明しただけで、公党としての責任を果たしたとは言えない。
 「政治とカネ」の問題はもちろん、けじめをつけられない政治の在り方そのものが、政治不信を膨らませ続けている。

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