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2022.03.11 08:00

【大震災11年】防災意識を高める日に

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 歳月を重ねても、愛する人や故郷を無残に奪われた被災者の苦しみが癒えることはないだろう。東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の発生から、きょうで11年になる。
 東北などを激しい揺れと津波が襲い、1万5900人が亡くなり、今も2500人以上の行方が分からない。避難生活の中で命を落とした震災関連死も3800人近くに上る。
 あのとき、何があったのか。被災の現実を伝える歌が合唱という形で全国に広がっているという。
 その12曲のタイトルは「あなたはどこに」「フルサト」「放射能」「許せるか、あなたは」「誰もいない福島」「なぜ生きる」…。
 福島市在住の詩人、和合亮一さんの代表作「詩の礫(つぶて)」に曲を付けた「つぶてソング」だ。震災の年に作られ、各地の合唱団に歌われて楽譜も売れ続けている。
 「詩の礫」は、被災直後の怒りや悲しみを吐露した「震災詩」として知られる。人々が歌声にのせて届けようとするのは、震災を風化させない―。その強い思いだろう。
 この11年でインフラの復旧は大きく進んだ。昨年末には、国が復興道路として整備を進めた三陸沿岸道路が全線開通した。震災の爪痕は被災地から消えつつある。
 一方で、記憶の風化が懸念され、震災遺構の保存も課題になっている。例えば、児童・教職員84人が犠牲となった宮城県石巻市立大川小の校舎だ。「あの日」の真実と教訓を知ろうと全国から見学者が訪れているが、一部の倒壊も心配されるほどに劣化が進んでいる。
 震災遺構は、言葉で伝えきれない脅威を教えてくれる「語り部」だ。どう維持し、保存するのか。国や自治体は、手遅れにならないように対応を急ぐべきだ。
 高知県でも、風化を押しとどめる必要がある。東日本大震災で高まった県内の防災意識が低下している。
 南海トラフ地震を想定した県民世論調査では、大きな揺れが収まった後、すぐに逃げると答える人が減り続けている。2016年度の73・7%をピークに年々下がり、20年度は65・1%にとどまった。
 この傾向が続けば人的被害が拡大する恐れがある。県は啓発に向け、法に基づく「津波災害警戒区域」の指定を決めた。沿岸19市町村で津波浸水が想定される全エリアを対象とする。危機感の表れと言えよう。
 津波から命を守るためには一刻も早く逃げることが欠かせない。あの日の東北で港や町並み、車がのみ込まれていった映像を思い返し、取るべき避難行動を考えたい。
 南海トラフ地震の可能性が高まった際に、気象庁が出す「臨時情報」の周知も進んでいない。情報をどう避難行動につなげるのか。県と市町村は連携して対応を検討すべきだ。
 課題はさまざまあるが、着実に取り組むことで犠牲者を一人でも減らせる。きょうは東日本大震災で命や生活を奪われた人々の無念や悲しみに思いをはせ、私たちの防災意識を新たにする日としたい。

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