2024年 04月29日(月)

現在
6時間後

こんにちはゲスト様

高知新聞PLUSの活用法

2022.03.10 08:00

【原発事故11年】現在進行形の課題なお

SHARE

 東日本大震災からあすで11年になる。復興に向けたインフラ整備は終盤を迎えている。ただ、東京電力福島第1原発事故の被害を受けた地域では様相が大きく異なる。
 震災と原発事故で避難生活をおくる人はことし2月時点でも約3万8千人に上る。このうち、県外への避難者は福島県が約2万7千人と突出している。
 帰還困難区域の一部では春以降の避難指示解除を前に住民の「準備宿泊」も始まったが、古里での生活再建には今も現在進行形の課題が横たわる。原発事故による傷の深さを思わずにはいられない。
 第1原発の廃炉作業はまだ序盤の域を出ない。最難関となる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しは年内にも2号機で試験的に始まる。とはいえ、1~3号機で計880トンと推計されるデブリの形状や分布状況は詳しくは分からない。
 本格的な取り出しには専用装置の開発が不可欠で、デブリの処分先も決まっていない。国と東電は廃炉完了を2041~51年とするが、見通しがつかないというのが現実ではないか。
 原発周辺でも、目に見えない放射性物質との戦いが続く。
 かつて地域の中心部だった「特定復興再生拠点区域」では除染やインフラ整備が進み、今春から住民の帰還が始まる。一方、大部分を占める区域外の扱いは、昨年夏に政府が方針を打ち出したばかりだ。
 全面的に除染する従来姿勢から転換。帰還希望者の自宅周辺のみを除染し、20年代の避難解除を目指す。住民が帰還しない場所は宙に浮いたままだ。多くの被災者にとって古里の景色はなお遠い。
 経済活動にも事故の影響は重くのしかかる。第1原発で発生し続ける処理水問題である。
 汚染水を除去設備で浄化しても、放射性物質トリチウムは残る。この処理水は敷地内で保管してきたが、23年春ごろに容量が満杯になるとして、政府は薄めた処理水を海に放出する方針を決めた。
 福島の沿岸漁業者は事故後、風評に悩まされながら試験操業を重ねてきた。海洋放出が始まれば、これまでの取り組みが新たな風評被害に遭う恐れがある。
 世論調査では海洋放出について賛否が拮抗(きっこう)し、国民の理解は進んでいない。政府の原発維持方針にも厳しい目が向けられている。約7割の国民が「脱原発」を志向しており、政府との意識の乖離(かいり)が改めて浮き彫りになった。
 原発事故の後、自民党の一部政治家らは原発と核抑止力を結び付け、原発維持を主張していた。ロシアのウクライナ侵攻による燃料価格の高騰と相まって、こうした議論が再燃することも考えられよう。
 しかし、被災地の今を見れば、原発のリスクがいかに大きく、長期に及ぶかは明らかだろう。福島の復興を着実に進めるとともに、冷静にエネルギー政策の在り方を議論し続ける必要がある。

高知のニュース 社説

注目の記事

アクセスランキング

  • 24時間

  • 1週間

  • 1ヶ月