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2022.03.08 08:00

【ゴーン事件判決】司法取引に裏付け求める

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 日産自動車の元会長、カルロス・ゴーン被告を巡る役員報酬の過少記載事件で、金融商品取引法違反の罪に問われた元代表取締役、グレゴリー・ケリー被告と法人としての日産に、東京地裁は有罪判決を言い渡した。
 判決は、最大の争点だったゴーン元会長への「未払い報酬」の存在を認定した。しかし、元側近のケリー被告の共謀は2017年度の過少記載のみを有罪とし、大半の起訴内容を無罪とした。検察側との司法取引に応じた元秘書室長の証言で、一部の信用性を否定したためだ。
 司法取引で得られた供述は、検察の意向に沿いやすい危うさをはらんでいる。客観的な証拠による「裏付け」が厳格に求められることが示された。
 元会長は19年末にレバノンに逃亡した。身柄引き渡しのめどは立たず、日本で公判が開かれる見通しはない。事件の真相解明を図る唯一の審理の場だった。
 判決によると、元会長は高額の報酬を開示せずに維持するため、元秘書室長に支払い済みの報酬のみを有価証券報告書に記載するよう指示。11~17年度の報酬総額は計約152億円だったのに、退任後に受け取る計約83億円分を除外した報告書を提出した。
 東京地裁は未払い報酬の存在を認め、元会長を事件の「主犯」と断定した。元秘書室長も全面的に犯行に関与したと認定された。
 ただし、18年6月に導入された司法取引制度の危うさが浮き彫りになったと言える。大型裁判では、適用される初めてのケースで、司法取引に合意した元秘書室長は元会長による「報酬隠し」を供述し、資料も提出するなどの代わりに不起訴となっていた。
 司法取引は過った使い方をすれば虚偽の供述で無実の人が巻き込まれたり、取調官への迎合も起きたりしやすいとされる。立法段階から、冤罪(えんざい)を生みかねないとの懸念が根強くあった。今回の判決は裏付け捜査の不十分さを厳しく指摘。制度の運用に対する裁判所の一つの基準を示した格好だ。
 一方、元秘書室長の証言と資料などの客観証拠がそろったことで、元会長の「主犯」が断定された。制度の持つ意義も示されたと言える。検察などは供述依存の捜査を自戒し、厳格な運用に努めるべきだ。
 東京地裁は、日産に求刑通りの罰金2億円を命じた。事件の要因は「長期の独裁体制で醸成された日産の企業体質にあった」とした。日産は判決を重く受け止め、健全な企業統治の在り方を追求していかなくてはならない。
 元会長は逃亡先で取材に応じて、自らを「主犯」と断定した東京地裁の判決を「不在の私に是が非でも罪を着せたいようだ」と批判した。元会長は無罪を主張しているが、そうであるなら司法の場で訴えるのが筋だろう。政府はレバノン当局を通じ、今後も粘り強く出廷を促す必要がある。

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