2022.02.17 08:35
「キャバレー王」福富太郎が愛した近代日本絵画80点 審美眼に焦点当て巡回展 高知県立美術館
川村清雄「蛟龍天に昇る」(1891年ごろ、福富太郎コレクション資料室蔵)
福富太郎
福富は全国にキャバレーチェーンを展開した実業家で、テレビのコメンテーターとしても親しまれた。13歳の時、父が大切にしていた美人画の名手、鏑木清方(1878~1972年)の掛け軸を空襲で守れなかったことを機にコレクター人生が始まった。80年代からは福富の美人画展が全国で開催され、高知も会場になった。
今回の巡回展は福富の審美眼に焦点を当てた。まず目に入るのが鏑木の代表作十数点。人魚の豊満な白い体や黒髪がなまめかしい「妖魚」は人気が高い。美術界の評価に左右されなかった福富のコレクションは美人画ばかりでなく、日本洋画の黎明(れいめい)期から第2次世界大戦までの時代を映す絵を網羅している。
例えば明治洋画の先駆者、川村清雄(1852~1934年)の「蛟龍(こうりゅう)天に昇る」は雲の上へと昇る龍を描き、勝海舟が高値で買い取った。「海舟の大ファン」だった福富は川村の息子から絵が売りに出ていると聞き、画商に電話をかけまくって手に入れたという。
変わったところでは高知出身の洋画家、石川寅治(1875~1964年)の「高知城を望む」。五台山から西方を見たパノラマ画は県立美術館の寅治の回顧展でも貸し出された。「江戸っ子の福富さんは素朴な田園風景を好まれたのでは」と中谷有里学芸員。作品とともに福富の人物像が浮かび上がる。
個性的で多彩な福富のコレクション。自分にとってのいい絵とは何か、を問い掛けてくるようだ。(村瀬佐保)