2022.02.12 08:40
問い掛けてくる「怖い絵」 香美市立美術館第3弾 絵金など56点
絵金派の屏風絵「菅原伝授手習鑑 寺子屋」
同展は2017年、日の目を見る機会のない収蔵品を紹介する企画として開いたところ、来館機会の少ない若年層の興味をつかんだ。翌年の「もっと怖い絵展」も好評だったことから、第3弾として企画された。
今回の特徴は絵金らの屏風絵5点をまとめて展示したこと。絵金は凄惨(せいさん)な描写で知られる。確かに生首や血しぶきが表現され怖さを感じるが、色彩は赤、緑、青など華やか。解説を手引きに作品を見ると、テーマが物語の世界ということで「死」が恐怖でなく「許し」や「救い」として表現されていることが分かり、怖さとともに新たな魅力が見つかる。
一方、他の作家の作品からは現実と向き合う中で、重いものを突きつけられているように感じる。シュールレアリスムを貫いた宮本の「最後の街」は文明社会への警鐘。「不安な通り」は、浮かぶ球体から現れたのが異星人のようで未知への恐れを感じる。
小作青史「顔をつかむ男」
水間利生の「悲しみの世代」は米中枢同時テロ(2001年)の翌年の作品で、建物が崩れ噴煙が漂い、足元にはたくさんのネズミの死骸が描かれ、不安が漂う。円尾(まるお)博一の「藤戸の浦」は死や霊の世界をイメージさせる。
山本の「帰郷2020」は新型コロナウイルス禍で行動が制限され、行き場のない不安が自画像とマスク姿の人々に込められている。吉川幸恵の「深層の番」は、暗闇の中で目を大きく見開いたネズミ。何を見ようとしているのだろうか。
過去2回の企画を通して都築房子館長は「恐怖を感じる作品ばかりではありません。見ていると作品の方から問い掛けてくるようなものが多い。そこから自分の中の怖いものを見つけてほしい」。
それぞれの作品は、見る人の気持ちを揺さぶり、そのうちに作者の思いが感じられてくる気がした。(池添正)