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2022.02.10 18:12

【五輪コラム】“恐怖”の記者が人気者に? 劇的効果のピンバッジ

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 筆者のストラップ。ボランティアによると、ビンドゥンドゥンのアイスホッケーピンバッジは売り切れているそう

 1年のうち多い時で半年近く海外出張に行っていた生活が新型コロナウイルスですっかり変わっていた。約2年半ぶりにパスポートを引っ張りだし、外部との接触を避けた「バブル」での生活や長時間の取材で食事にありつけなくなることも想定し、大量の食料を詰め込んだスーツケース2個を携えて北京入りした。


 担当競技のアイスホッケーは2会場あり、女子日本代表がプレーするリンクは拠点とするメインメディアセンターからバスで30分ほど。3度目の五輪取材とはいえ、新しい場所に慣れるまで時間がかかる。働きやすい環境か、運営側の対応はちゃんとしているだろうか。行ってみなければ分からないことも多く、道中はそわそわしていた。


 案の定、最初の数日は思わぬトラブルが起きた。試合会場に隣接するリンクで日本代表が練習するので取材をしたいと告げると「まだメディアの動線が国際連盟から承認されていないので入れない」と悪気もなく言う。ボランティアを問い詰めても何も変わらない。こみ上げるものをぐっとこらえて「分かった。ありがとう」と言ったが、怒りが漏れ出てしまっていたようだ。


 次の日に会場に行くと、ボランティアたちは明らかに私を恐れていた。消え入るような声で「どうぞ」と、報道向け資料を置いて去っていく。どうしてだろうと思い、ホテルに帰ってふと鏡を見ると眉間のしわが深くなっていた。「あ、怖い顔をしてたんだ」。久々の海外出張で気が張っていたからか、原稿がなかなか書けずにパソコンとにらめっこをし過ぎていたからなのか、いつの間にかきつい顔つきになってしまっていた。マスクをしていることもあり、表情もよく見えない。ほぼ毎日顔を合わせる人たちからしたら、第一印象は最悪だったのだろう。


 その関係性が一つのきっかけで大きく変わった。ある日、練習リンクからメインリンクに戻る道中、案内してくれたボランティアから「ピンバッジを交換したい」と言われた。選手団やメディアなど、五輪では大会に集う各団体が独時のピンバッジを作り、交流の証として交換する習慣がある。


 コロナ禍で人との接触が制限されており、バッジを交換している姿は以前ほどは見ない。それでも念のためにと思って持ち歩いていたバッジを見せると「きれい」と大感激した。すると「私のもあげる」とアイスホッケーをする公式マスコット、ビンドゥンドゥンのバッジを渡してくれた。


 次の日から、会場で必ず声を掛けられるようになった。「あの記者はピンバッジを持っているぞ」と一瞬でボランティアの間に広まったのだろう。バッジを取り出すたびに目を輝かせて「ありがとう」とうれしそうに言ってくれる。一気に距離が縮まり、毎日会場に行くと笑顔であいさつを交わすようになった。


 北京に来てから間もなく2週間。体力的につらくなってくる分、周囲の人の笑顔だけでも救いになる。劇的に人間関係を円滑にしてくれた伝統的コミュニケーションツール。かばんに忍ばせておいてよかった。(共同通信・星田裕美子)

(c)KYODONEWS

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