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2022.02.05 08:00

【佐渡金山推薦】遺産で対立を深めるな

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 「佐渡島(さど)の金山」(新潟)の世界文化遺産登録に向け、政府は国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦書を提出した。
 佐渡金山は二つの鉱山遺跡で構成する。17世紀には世界最大級の産出量を誇った。金の採取から精錬までを手作業で行っていた時代の遺跡が残るのは世界的に例がないとされ、価値は高い。新潟県などは江戸時代の遺構の価値を強調している。
 だが、この推薦に対して韓国は、朝鮮半島出身者が戦時中に強制労働をさせられた現場だと反発し、撤回を訴えている。日韓外相会談でも対立の溝は埋まらなかった。
 韓国が強硬な背景には、「明治日本の産業革命遺産」(福岡など8県)として世界文化遺産に登録された長崎市の端島(通称・軍艦島)を巡る動きが指摘される。韓国は同様に、徴用された朝鮮半島出身者が労働に従事したと反発していた。
 日本は犠牲者を記憶にとどめるために適切な対応をとると表明し、韓国も登録に同意した経緯がある。しかし、開設した「産業遺産情報センター」(東京都)は被害が明確に説明されていないと韓国が批判を向ける。さらにユネスコ世界遺産委員会も展示や説明が不十分との決議を採択し、改善を求めている。
 世界遺産委は、推薦前に関係国との建設的な対話を推奨する作業指針を採択している。他国の反対で登録できなくなった事例があり、政治案件を持ち込ませない思いからだ。佐渡金山も韓国との2国間協議を促され、審査が棚上げされる可能性さえ取り沙汰される。
 自民党内からは、韓国の対応を非難し、日本政府に反論を求める意見が出ている。首相は、韓国と「冷静で丁寧な議論、対話をしていきたい」と述べている。登録が難しくなっては元も子もないだけに、そうした姿勢での取り組みは大切だ。
 ユネスコは貴重な文書などを登録して保存する「世界の記憶」について、関係国の異議申し立てを認め、合意がなければ審査に入らないことにした。この改革は日本が主導した。世界遺産の審査とは連動しないが、関係国との調整が重視されるようになったのは間違いない。
 今回の推薦を巡っては、政府は外交問題化への懸念から見送る方向で検討したようだ。それを翻したのは、韓国に対して弱腰だとみる保守層からの突き上げだった。夏の参院選へ向け、保守層離反への警戒感は相当強い。首相の一貫しない対応が混乱の一因にもなっている。
 世界遺産は人類共通の財産として登録する。遺産委を構成する国の一部に反対があっても賛同の多さによって登録されるルールはあるが、原則は全会一致だ。歴史的建造物や遺跡には国によって受け止めの違いもあるだろう。それを顕在化させない知恵が求められる。
 日韓の関係悪化は米国も憂慮する。日米韓の連携が強固にならなければ北朝鮮への圧力も強まらない。首相の表明した丁寧な議論、対話の実現へ外交努力が必要だ。

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