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2022.01.31 08:00

【高速炉開発協力】核燃サイクル破綻直視を

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 日本原子力研究開発機構と三菱重工業などは、新たな高速炉を開発する米企業「テラパワー」と技術協力に向けた覚書を締結した。政府が固執する核燃料サイクルの維持につなげる思惑とみてよい。
 岸田政権は「脱炭素社会の実現」を名目に、高速炉や小型モジュール炉(SMR)など次世代技術の実用化を目指す方針を採る。しかし、機構の「もんじゅ」廃炉で、核燃サイクルの破綻は明らかだ。冷静にエネルギー政策の方向性を見直すべきだろう。
 日本が1950年代から研究を進めてきたのは、消費した以上にプルトニウムを生む「高速増殖炉」だ。使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再び燃料に使う。核燃サイクルの中核施設と位置付けられていた。
 実験炉、原型炉、実証炉、実用炉と段階的に開発する計画だったが、原型炉のもんじゅでトラブルが相次ぎ2016年に廃炉が決定。1兆円もの国費を投じたが、稼働実績はわずか計250日にとどまった。
 政府はもんじゅの廃炉決定後も高速炉開発の方針を堅持するが、「50年ごろ」としていた実用化目標を18年末に見直した開発工程表で「今世紀後半」へと先送りした。事実上、政府自身が開発の行き詰まりを認めたに等しい。
 そうした状況にあって、米企業への協力は国内の技術維持や人材育成に好都合とみたのではないか。
 マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏らが設立したテラパワーの計画はウラン燃料を使う高速炉で、日本とはタイプが異なる。ただし、冷却材にナトリウムを使うなど共通した技術も多い。
 協力内容は今後協議するが、日本側はもんじゅの運用経験やナトリウム利用などに関する情報を提供することになろう。テラパワーからは高速炉の設計情報などを取得することが期待できるという。
 高速炉を含めた核燃サイクルに対する、政府や原子力業界の執着ぶりには改めて驚かざるを得ない。核燃サイクルの現状を直視する必要がある。
 要となる日本原燃の再処理工場は22年度上期の完成を目指しているものの、建設費は当初見込みの4倍、3兆円に膨らんだ。とてもコストに見合うまい。
 再処理した燃料を消費する高速増殖炉の開発は頓挫した上、一般の原発で消費するプルサーマル発電の導入も4基にすぎない。東京電力・福島第1原発事故以降、原発の再稼働自体が進まない状況もある。
 たとえ再処理が始まっても消費の見込みは乏しい。核不拡散の観点から、プルトニウムの大量保有は国際的批判を招きかねない。資源の有効利用という目的は技術的な問題以上に破綻している。
 原子力政策への世論も厳しいままだ。脱炭素社会への道も一つではない。再生可能エネルギーの拡大を目指す方が国民の共感も得られよう。国際協力の輪もより広がるはずだ。

高知のニュース 社説

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