2022.01.11 08:00
【RCEP発効】自由貿易の恩恵を広く
日本や中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)など計15カ国が加盟し、まず10カ国でのスタートとなった。互いに関税を引き下げ、統一したルールを追い風に自由貿易を推し進める。新型コロナウイルス禍で停滞した国境を越えたサプライチェーン(供給網)の再編への期待も大きい。
日本にとっては、環太平洋連携協定(TPP)に並ぶ大型の経済枠組みとなる。中国、韓国と初めて結ぶ経済連携協定でもある。恩恵が広く国民に行き渡るようにしたい。
日本が輸出する自動車部品など工業製品にかかる関税は、将来的に全品目の92%が撤廃される。自由貿易の枠組みがなかった中国向け品目の割合が大幅に拡大する。
一方、日本が輸入する農林水産品に課す関税の撤廃率は5~6割ほどになる。自由化の水準はTPPより抑えた。政府は国内の農林水産業に大きな影響は生じないとの見方を示す。だがその確認は怠れない。同時に生産基盤を強めながら、新たな市場の開拓に努めることも必要だ。
国連貿易開発会議(UNCTAD)の試算では、域内の貿易額はその2%弱に相当する5兆円ほど押し上げられる。日本が加盟国で最大の恩恵を受けるとする。
政府は日本の実質GDPを2・7%押し上げ、雇用を57万人相当増やすと見込んでいる。TPPを上回るだけに期待も大きい。
自由な経済活動に関するルールも盛り込まれた。中国が入る協定では初めて、域内に進出した企業に対してその国の政府が技術移転を求めることを禁止した。
中国は、RCEPを生かしてアジア太平洋地域の経済圏をけん引する立場を獲得する狙いがあるとみられている。米国が離脱したTPPへの加盟も申請した。存在感を高めながら、自国に有利な貿易ルールをつくりたい思惑が指摘される。
だがその前に、始まったばかりのルールの順守状況が試されることになる。自由貿易の推進へ自らが積極的に関与する姿勢をとらないと存在感は高まりはしない。
経済活動は環境や人権問題を無視できなくなっている。この面にも中国に厳しい視線が向けられていることを認識する必要がある。
米中の主導権争いは経済秩序を巡っても繰り広げられている。中国のTPP加盟申請に対し、米国はインド太平洋地域の新たな経済枠組み構想を打ち出して対抗している。経済対立は深まる様相を見せる。
多国間の貿易体制に中国が加盟する意義は大きい。中国経済の影響力が強まることが想定されるが、透明性を高めることにつながる可能性もある。米中対立を受け、日本は経済活動と安全保障のバランス維持に困難が伴うものの、地域の安定へ知恵を絞っていく必要がある。