2021.12.26 08:00
【外交文書公開】トラウマの起点あらわに
湾岸戦争で日本は総額130億ドルの財政支援を行ったが、人的貢献がないと国際的に批判された。そのトラウマが「起点」となり、自衛隊と米軍の運用一体化へつながっていく。
台湾を巡る米中対立が顕在化し、戦争に巻き込まれる恐れが一段と高まっている。過去の教訓を平和の維持に生かす姿勢が求められる。
公開文書には、安全保障や貿易不均衡の是正を図る構造協議で、日本政府の苦慮する姿が浮かび上がる。特に湾岸危機では、冷戦終結後に唯一の超大国となった米国の圧力にさらされた。
ニューヨークでの首脳会談でブッシュ大統領は直接、海部首相に湾岸戦争への自衛隊派遣を切り出した。「憲法上の制約は十分に理解している」。憲法9条が武力行使を禁じると認識した上での発言だった。
国際情勢次第で憲法制定時とは矛盾した要求を突き付ける大国のご都合主義が際立つ。当時、この「自衛隊発言」は対外的に伏せられたが、大統領本人の発言は日本政府にはこれ以上ない圧力だったろう。
海部首相は憲法上の制約を強調。後方支援を担う国連平和協力隊を創設する妥協案を構想した。だが国民の反発で廃案となり、多国籍軍に巨額の財政支援を行う。これも公開文書で、米側の「言い値」で負担したことが判明した。
戦争終結後には機雷除去のために自衛隊の掃海艇も派遣した。それでも「小切手外交」と国際的に批判され、日本政府に深い傷を残した。
自民党政権は以降、自衛隊の活動拡大をなし崩し的に推し進め、安倍政権下の2015年に成立した安全保障関連法へと行き着く。
安保関連法は、密接な関係の他国が攻撃を受け日本の存立が脅かされる場合を「存立危機事態」とし、集団的自衛権を行使できるとする。日本の平和に重要な影響を与えるケースでは、米軍の後方支援を行う「重要影響事態」も新設した。国是の専守防衛の枠を超え「国のかたち」を変える恐れが現実味を帯びる。
政府は具体的な法運用も視野に入れ始めた。台湾有事を想定する、自衛隊と米軍の共同作戦計画の原案を既に策定したという。米海兵隊が沖縄県の南西諸島に臨時の軍事拠点を置く内容で、住民が戦闘に巻き込まれる危険性が極めて高い。
こうした動きが到底、容認できるはずがあるまい。そもそも共同作戦の前提となる安保関連法は、今も国民の反対が根強い上、違憲の疑いもある。住民訴訟も各地で続いている状況だ。
公開文書が示したのはむしろ、外交の重要局面で大国の圧力に屈すれば、際限なく妥協を強いられるという教訓ではないか。戦争などから国民の安全を守ることこそ、政治に課せられた役割である。