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2021.12.19 08:00

【大阪ビル火災】真相解明し対策強化を

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 関西有数の繁華街、大阪市北区北新地の8階建て雑居ビルで発生した火災は、20人以上の犠牲を出す惨事となった。大阪府警が捜査本部を設置して調べている。
 殺人と現住建造物等放火の疑いが持たれている男も重体で搬送され、現時点では詳しい動機や経緯が明らかになっていない。
 出火の約30分前には、男が住んでいたことがあるとみられる大阪市西淀川区の住宅でも火災があった。今後の対策に生かすためにも、関連性を含めた捜査の進展が待たれる。
 火災はビル4階のクリニックで発生。心療内科と精神科の診察を行っていた。通院していたとみられる男が、受付付近で持参した紙袋を蹴り倒し、中に隠していた液体を流出させて放火したとみられる。
 焼失面積はクリニックの79平方メートルのうち3分の1程度にとどまるが、被害の大きさには息をのまざるを得ない。被害者に目立った外傷はなく、一酸化炭素中毒で亡くなった可能性があるという。
 液体がガソリンのような燃料だったとすれば、瞬く間に燃え広がった恐れがある。出入り口付近が激しく燃えており、多くの人が逃げ場を失って巻き込まれたのではないか。
 この日はちょうど、休職した患者の職場復帰を支援する集団治療「リワークプログラム」が予定されていた。通常よりも多くの人が受診していたことで、被害が拡大したとみられる。
 構造上の問題も影響しただろう。非常階段はエレベーター近くの1カ所だけだった。ただし、専門家によると同規模のビルでは複数の避難経路を確保するのが困難で、一般的な構造だという。
 スプリンクラーも建物の規模が小さいため設置義務はなかった。市消防局による2019年3月の定期検査でも不備は確認されていない。
 01年9月に起きた東京・新宿の歌舞伎町ビル火災では、44人の犠牲者のほとんどが一酸化炭素中毒で亡くなった。これを受けて消防法が改正され、消防署が事前通告なしに立ち入り検査し、障害物の撤去など是正命令を出せるようになった。
 さらに19年7月の京都アニメーション放火殺人事件を機に、ガソリンを携行缶で販売する場合、購入者の身元や使用目的の確認が事業者に義務付けられた。
 教訓を基に対策が強化される中で発生した今回の事件は、悪意による犯罪行為を防ぐ難しさを社会に突きつけたと言える。
 ただ、誰しもが巻き込まれる恐れをそのままにはできない。事件の背景や動機を明らかにした上であらゆる対策を積み上げ、社会全体の安全性を高める必要がある。
 事件を受けて、会員制交流サイト(SNS)上の誹謗(ひぼう)中傷も懸念される。近年は、曖昧な情報を基に事件とは全く関係のない人物を犯人扱いしたり、独自の価値観から非難したりする被害が続出している。いわれのない偏見や差別を絶対に広げてはならない。

高知のニュース 社説

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