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2021.12.17 08:00

【森友改ざん訴訟】真相解明は打ち切れない

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 賠償責任を認めて幕引きを図ろうとしても、国側の説明責任までないものにはできない。真相解明に真摯(しんし)に向き合うべきだ。
 森友学園問題に関する財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した同省近畿財務局の元職員、赤木俊夫さんの妻、雅子さんが国と同省理財局長だった佐川宣寿元国税庁長官に損害賠償を求めた訴訟は、国が請求を全面的に受け入れた。
 請求棄却を求めて争ってきた国側が突然、主張を撤回した。国から明確な説明がないままで終結した。
 「負けたような気持ち」と、雅子さんは悔しさをにじませた。真実を明らかにしたいという思いを受け止めない国側の姿勢に対する率直な思いだろう。改ざんに至る具体的な経緯が分からなければ、問題全体の構図は明らかにはならない。徹底的な検証が行われないままでは、再発防止への期待もすぼむ。
 財務省の調査報告書は、改ざんは佐川氏が主導して方向性を決め、理財局幹部が中核的な役割を果たしたと認定した。安倍晋三元首相が夫妻の関与を否定した国会答弁などが、不都合な文書の廃棄につながったとしている。
 国側は、請求を受け入れた理由を「いたずらに訴訟を長引かせるのは適切ではなく、決裁文書の改ざんという重大な行為が介在している事案の性質などに鑑みた」と説明する。国家賠償訴訟で国が訴えをそのまま認めるのは極めて異例で、深い反省に基づくのであれば、そのこと自体を批判はしない。
 だが、赤木さんが経緯をまとめた「赤木ファイル」を巡り、雅子さん側が提訴の際に証拠提出を求めても国はその存在を曖昧にし、確認に1年以上を要している。長引かせてきたのは国側だったはずだ。
 ファイルには佐川氏の指示をうかがわせる内容がある。詳細なやりとりは判然としないため再調査の必要性が指摘される状況だったが、訴訟の終結はかえって解明を遠のかせる結果になってしまう。
 赤木さんの自殺原因を国は、森友関連の業務に忙殺され精神面、肉体面への過剰な負荷が継続したことで精神疾患を発症したと位置付ける。決裁文書改ざん指示や情報公開請求への対応に苦しんだということだが、どういう経緯で追い込まれたのかの解明は不可欠だ。行政がゆがめられることへの疑念を曖昧にしてはならない。
 改ざんを巡り、菅政権は職員の処分が行われているとして決着との姿勢を貫いた。岸田文雄首相は、裁判打ち切りという形でその姿勢を引き継ぐということだろうか。
 「夫はまた国に殺された」という雅子さんの嘆きを、首相はどう聞いただろう。首相は「政府として真摯に向き合う」と語り、丁寧に説明する考えを示している。その対応が試されている。
 「1強」と言われた安倍・菅政権から続く問題はほかにもあり、政治の信頼を揺るがせている。解明と説明を怠ることはできない。

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