2021.11.30 08:00
【新変異株】最悪を想定した対応を
新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の感染が、南アフリカから欧州などへ急速に拡大している。現在、世界で猛威を振るうデルタ株をしのぐ、極めて強い感染力を持つ恐れがあるという。
ワクチン接種の進展に伴い、日本を含めた各国で感染防止のための行動制限が徐々に緩和されている。そうした流れが一変する可能性もあろう。最悪の事態を想定しながら、最新の知見を踏まえた機動的な対策が求められる。
オミクロン株について、世界保健機関(WHO)は警戒レベルが最も高い「懸念される変異株」に分類した。南アフリカ当局から24日に感染の確認を報告されたばかりで、まだ重症化率の高さといったウイルスの特性も不透明な段階だ。
最大限の警戒は、これまでの変異株以上に感染力が強い恐れがあるためだという。WHOなどによると、人間の細胞への侵入に関わる部分など、約50カ所の遺伝子変異が見つかっている。アフリカのワクチン接種の遅れが変異を加速させた可能性も指摘される。
実際に感染の広がりは急速だ。南アフリカでは約2週間という短期間のうちに、デルタ株を駆逐するような勢いで感染の主流が置き換わったとみられる。
さらにここ数日で、欧州など各国に感染が飛び火した。航空機の乗客の約1割でオミクロン株を含む感染が確認されたほか、直接の接点がなかった隔離中の人から感染した事例も判明している。
世界各国でアフリカ南部からの渡航を制限する動きが拡大している。日本では未確認だが、国立感染症研究所は警戒レベルを最高の「懸念すべき変異株」に引き上げ、政府は水際対策の強化に踏み込んだ。
ワクチン接種が進んだ国では、感染防止策として国民に求めてきた行動制限が、経済立て直しに向けて緩和される局面にある。日本でも「ワクチン・検査パッケージ」を活用して、イベントや飲食時の人数制限が緩められる。
ただ、オミクロン株の出現で、経済の立て直しへの不確実性が高まったのは間違いない。緩和の前提と言えるワクチン効果が不透明な点は大きな懸念材料だ。今後の分析によっては、3回目接種など対策の練り直しを迫られることもあり得る。
専門家の中には「水際対策は時間稼ぎにしかならない」という声もある。そうだとしても、クリスマスや年末年始など、人の流れが活発になって感染しやすい状況をやり過ごすだけで効果は小さくない。
政府は流行「第6波」に備え、今夏のピークより3割増の病床、自宅で使える飲み薬を確保する方針を示している。これまで政府対応は後手に回る場面が見られた。
再び多数の「医療難民」が発生する事態を繰り返してはならない。水際対策を徹底しつつ、医療体制の備えに万全を尽くす必要がある。