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2021.11.14 08:00

【高専衛星】科学の夢膨らむ打ち上げ

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 高知高専など国立高専10校が共同開発した超小型人工衛星「KOSEN(こうせん)―1」が宇宙空間に旅立った。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型ロケット「イプシロン」5号機で打ち上げられた。
 高専衛星は木星が発する電波を観測しながら地球を周回。南国市内の観測拠点とデータなどを無線通信するという。身近な場所に「宇宙への扉」が開かれるとは、県民にとっても夢が膨らむ壮大なプロジェクトだ。大きな一歩を踏み出した学生たちに声援を送りたい。
 宇宙への道のりはやはり遠い。高知高専などは文部科学省の人材育成事業に選ばれた2014年度から、小型衛星の開発を続けてきた。
 高専衛星のプロジェクトマネジャーを務める今井一雅客員教授の研究室は、「衛星設計コンテスト」入賞など地道に実績を重ねてきた。その成果が、教育機関や企業に実証実験の機会を提供するJAXA事業の採択につながった。
 衛星は10センチ四方の立方体を二つ重ねたほどの超小型だ。両側に3・3メートルずつアンテナを広げ、木星からの電波を受信する。高知高専を含め、10校の50人以上の学生が約2年半を費やして開発した。
 高知高専が担ったのはその心臓部だ。市販のマイコンボードなどを使った電子機器で、衛星の姿勢やアンテナの制御を行う。地上の観測拠点は南国市が支援して整備した。衛星と地上での観測データを合わせて解析することで、エネルギーの変換効率を高めるヒントが得られる可能性があるという。
 多くの仲間と試行錯誤して作り上げた衛星が、過酷な宇宙空間でも稼働している。参加学生にとって、科学やものづくりの喜びをこれ以上感じる体験はないだろう。人材育成の観点から価値ある機会と言える。
 効果は学生にとどまるまい。こうしたニュースは現実味のある夢として小中学生らの記憶に残り、宇宙のみならず、科学全般への関心を高めることにつながろう。
 日本の科学分野は近年、地盤沈下が指摘されている。数多く引用されるなど注目される論文の数や、博士号の取得者数は他国に次々と追い抜かれている状況だ。
 政府は00年ごろから研究予算を抑制し、研究の場に競争原理を持ち込んだ。その結果、任期付きの不安定な研究職が増え、研究環境が悪化したとの指摘は多い。
 ことしのノーベル物理学賞に決まった真鍋淑郎・米プリンストン大上席研究員は、日本の科学界を「好奇心に基づく研究が少なくなっているのではないか」と懸念する。以前から研究費はもちろん、設備などの体制整備、研究者の層を厚くする必要性を指摘してきた。
 高知高専など学生たちの研究は宇宙に達した後も続く。「KOSEN―2」もロケットへの搭載が決まっている。こうした学生や若い研究者の膨らんだ夢や探究心を、どう未来につなげていくか。安心して研究できる環境づくりを急ぎたい。

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