2021.11.01 08:00
【'21衆院選高知】政治不信は拭えていない
尾﨑氏は3期12年にわたり県知事を務めた知名度と実績を武器に、自民の失地回復を果たした。
地方対策では、産業振興による雇用創出をてこに若者の県内定住や子育てへの好循環を生み出す政策を、国レベルで後押しすると訴えた。こうした主張が一定の説得力を持って受け止められたと見ることができる。地域が抱える危機意識はそれだけ強いとも言える。
東京一極集中を是正し、地域の衰退に歯止めをかけるには多面的な対策が必要だ。時間の制約も強まっている。民意を国政にしっかりと届け、地方回帰の流れを強める実効性のある取り組みを求めたい。
広田氏は前回、野党分裂の流れの中で無所属で出馬した。県内野党勢による候補一本化が図られ、政権批判票を幅広く受け止める選択肢となった。今回は立民から立ち、与野党対決を軸に選挙戦を展開した。しかし前回の勢いを維持できず、尾﨑氏の安定した得票を上回ることはできなかった。
中谷氏は幅広い浸透ぶりを今回も見せた。
県内小選挙区で2000年以降続いた自民の議席独占を前回は広田氏が崩したが、自民が取り戻す結果となった。再び立ちはだかることになった自民の壁を野党は今後どう突き破るのか。対抗勢力としての迫力不足を突きつけられた形でもあり、新たな態勢の構築が急務となる。
今選挙は新型コロナウイルス対策と経済政策が主要争点に挙げられた。暮らしの立て直しに関わる身近な問題と位置付けられる。しかし具体策は判然とせず、対立軸とはなりにくかったとも指摘される。そうした見方を反映するように投票率はあまり伸びていない。そのことを重く受け止める必要がある。
衆院選に合わせて高知新聞社などが行った県民世論調査は、衆院選への関心は7割を割り込んでいた。近年では低めの反応だ。県内投票率も前回を上回ったものの50%台にとどまった。
岸田文雄首相はコロナ禍で「政治と国民の心が離れてしまった」と語っている。確かに後手に回る対策には批判が強く、行動規制への協力も緩みがちな局面があった。ただ、それだけが「選挙離れ」の要因ではないだろう。特に意識すべきは政党、政治家への不信感ではないか。
県民世論調査は、森友学園を巡る公文書改ざんや「桜を見る会」夕食会費を巡る政府説明に納得できないとする回答が8割を超えた。前回17年の類似設問でも8割近くが納得していなかった。4年間で疑念を拭い去れなかったということだ。
本紙アンケートに中谷氏、尾﨑氏とも説明責任を果たす必要性は認めている。コロナ禍で生まれた政治不信ものしかかる。県民の思いとどう向き合うか注視する。