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2021.10.28 08:00

【2021衆院選 社会保障】安心への裏付けを示せ

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 95歳まで夫婦で生きるには約2千万円の蓄えが必要―。金融庁の金融審議会による試算が大きな衝撃を与えたのは2019年だった。
 より切迫した新型コロナウイルスの脅威が国民の耳目を集めているとはいえ、将来の不安がなくなったわけではない。老後資金に関する「指南本」が次々と刊行されているのはその証左だろう。
 世論調査では、衆院選で重視する政策として県民の2割以上が年金や医療などの社会保障を挙げた。国民が安心できる社会保障制度をどう構築するのか。裏付けとなる財源を含め、各党は国民の不安に正面から答える責任がある。
 金融庁の試算は、老後に向けた資産形成を促す目的だったが、国民の多くはむしろ、公的年金制度への不安を募らせた。19年参院選では主要な争点に浮上したが、論戦は不完全燃焼だったといえよう。
 参院選後になって厚生労働省は、年金の健康診断といわれる財政検証を公表した。約30年後にモデル世帯の実質的な年金の価値は、現在の65歳に比べ2~3割目減りするという内容だった。
 当時の安倍晋三首相は「全世代型社会保障」を掲げ、閣僚や民間識者による会議を発足させた。年金や医療、介護など高齢者に照準を合わせた社会保障給付の配分を見直し、現役世代にも恩恵が届くようにする。その具体策の検討に入った。
 ただ、会議には当初から限界があったといってよい。安倍政権は追加増税といった痛みを伴う議論に及び腰だったからだ。内閣支持率への影響を考慮したに違いない。
 途中で菅政権へと代わり、コロナ禍で議論は延びたものの、昨年末までに報告書がまとめられた。公的年金の受給開始年齢を75歳まで広げたほか、75歳以上の医療費に2割の自己負担枠新設などを盛り込んだ。
 いずれの施策も対症療法の域にとどまっていよう。政府の推計では、社会保障給付費は団塊の世代が全員75歳以上になる25年度に約140兆円、高齢化がピークの40年度には約190兆円に達する。
 給付の急増に対応するには抜本的な改革が避けられないものの、一連の対応策は「全世代型」と称しながら現役世代の負担を高齢世代に付け替えたにすぎない。田村憲久前厚労相が国会審議で「将来にわたり安定的な制度にするために、弥縫(びほう)策だけではなかなか難しい」と振り返った通りだろう。
 衆院選の公約をみれば、各党とも現金給付や子ども施策の拡充を掲げる。だが、年金改革や教育関連施策の裏付けとなる財源には曖昧さを拭えない。
 社会保障制度には持続性と世代間の公平性が欠かせない条件だ。給付と負担にどう現実的な折り合いをつけるか。痛みを含めて語らなければ、国民の不安は解消されまい。抜本的な改革に向け、各党は明確な将来像を提示しなければならない。

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