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2021.09.22 08:00

小社会 彼岸に思う

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 暑さ寒さも彼岸まで。聞き慣れた慣用句は気候変動の当節にはそぐわないのか、シルバーウイークの土佐路は秋空に夏雲が居座り、残暑厳しい彼岸の入りだった。墓参りに出向いた山里で、道すがら何度も汗をぬぐった。

 田舎育ちだから季節の移ろいには敏感だ。間もなく野辺を真っ赤に染め上げる彼岸花は、この時季まだ咲き始め。墓山では主役に先んじて穂を垂れ始めたススキがつかの間の天下を誇っていた。

 花の命は短くて、晩夏に咲くクズを追い掛けるように、イタドリもはや盛りを過ぎていた。この花が咲くとツガニが産卵のため川を下る。つまり開花がカニかご漁の合図となる。時分がきたらあそこにこう仕掛けよ。そんな秘訣(ひけつ)を教えてくれた地元の川漁師も、多くが鬼籍に入ってこの墓山に眠る。

 年々歳々花相似たり、歳々年々人同じからず。いずれ季節が巡れば花はまた咲こうが、墓守はそうはいかない。後継が絶えれば墓はたちまち荒れる。維持管理をどうする、いっそ墓じまいをするか、そんな会話が山里で交わされて久しい。

 彼岸を文字通り向こう岸と解釈すれば、自民党総裁選に明け暮れる政局は、此岸(しがん)たるこちら側からは遠い世界の騒動のようだ。聞こえがいい公約が飛び交うが、選挙が終わればうたかたの夢に終わって、結局地方は何も変わらない。

 その繰り返しの行き着く先に、今の山里の現実がある。日が傾いたようだ。秋風が首に冷たい。

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