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2021.08.15 08:00

【終戦の日】体験をどう伝えていくか

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 福岡県の北九州市が来春、西日本最大の兵器工場だった「小倉陸軍造兵廠(しょう)」跡地に、平和資料館を開館させる。
 小倉は、米軍が広島の次に原爆を投下しようとした都市として知られる。当日の視界が悪かったため、B29爆撃機は長崎へ向かった。資料館はそうした経緯も踏まえ、原爆や空襲被害、戦中戦後の市内の写真や映像などを展示する予定だ。
 壁面に投影されたキーワードに触れると証言が浮かび上がる映像装置や360度シアターを導入するなど臨場感あふれる映像や音声で、五感を通じた戦争体験の継承を目指す。ただ戦争体験者が相次いで死去し、時代背景を確認するための証言集めに苦労しているという。
 きょう、終戦の日を迎えた。太平洋戦争の開戦からは12月で80年となる。
 戦後、身をもって戦争の悲惨さや愚かさを知る人たちの証言が日本の平和主義と反戦の世論を形作ってきた。だが、76年という月日は人の一生にほぼ重なる長い時間だ。日本社会は今、貴重な記憶を急速に失いつつある。
 今年1月に亡くなった作家の半藤一利さんはその代表格といえるだろう。「日本のいちばん長い日」「昭和史」シリーズなどで知られ、「昭和史の語り部」とも評された。精力的な取材・執筆活動の根底には東京大空襲で逃げ回った際の光景があったようだ。
 数々の対談をした作家の保阪正康さんによると、半藤さんは旧日本軍指導層への取材を重ね、「史実を確認するのは人間と人間の真剣勝負なんだ」とよく話していたという。なぜ、無辜(むこ)の市民が苦しみの声をあげながら亡くならざるを得なかったのか。長年の疑問が真剣勝負を支えていたに違いない。
 その成果である「昭和史」で、大小の出来事が絡み合う歴史のあやに触れ、大事件の前には必ず小事件が起こると記している。戦争へ至る小さな兆しにいかに敏感になれるか。今の社会に向けられた貴重な教訓といえる。
 しかし、安倍前政権は2013年に特定秘密保護法を制定し、14年には武器輸出三原則を緩和、15年には安全保障法制も成立させた。平和主義を守るためのたがを次々と外し、今も憲法9条を改正して「軍」を明記しようとする動きがくすぶる。
 私たちにも懸念がある。世論調査によると、太平洋戦争が真珠湾攻撃から始まったことを知らない人が13%いた。長年にわたる平和を享受してきた裏返しともいえようが、歴史への関心が薄れれば、戦争の兆しに対する敏感さをも失ってしまうのではないか。
 戦争体験者の生の声を聞くことができない日は遠からずやって来よう。継承の手段は現実的に証言から歴史教育へ移らざるを得ない。日本が二度と誤った選択をしないために、戦争の記憶をどう次の世代へ着実に伝えていくか。今を生きる私たちの大きな責任と言える。

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