2021.07.11 08:25
夢限大の水紋 高知の飛び込み、世界へ(5=終)新施設完成 官民の後押しも背に
「パーン」。はじけるような音が春野プールに響くと、底から大きな気泡がブクブクッと浮かび上がった。頃合いを見計らって選手が飛び込む。
高所から水面に飛ぶ飛び込み競技は、痛みとの闘いでもある。圧縮空気で発生させた気泡で衝撃を和らげるのが「バブルマシーン」だ。
瓶子(へいし)勇治郎コーチ(49)が「国内ではうちだけ」と話す“特別装置”は、保護者の協力も得て約5年前に取り付けられた。
費用を工面したのは、四十数年来、高知の飛び込みに関わってきた国分昌三さん(78)=大阪市在住。「今の指導陣の頑張りには頭が下がる。僕にできることは、お金を出すくらいだから」。高知の「飛び込みファミリー」には一致団結する気概がある。
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手作りの環境整備は、長年続く慣習でもある。2000年代後半、春野プールの脇で陸上での練習ができるよう、プールサイドにトランポリンや選手をつり下げる練習機器が設置された。中には保護者が作ったものも。勇治郎さんは「公共の場所での整備。施設側の理解も大きかったです」と県に感謝する。
ただ、整備されたのはいずれも屋外。「冬は身を切るような寒さ。空中動作を覚えなければならない子どもたちは大変だったと思います」と笑里佳さん(47)。
13年に五輪の東京開催が決定。県内スポーツの競技力向上が課題になる中、県教委は結果を出した競技に強化費を重点配分するなど、支援への機運が高まった。
当時、スポーツ健康教育課長だった葛目憲昭さん(57)=現岡豊高校長=は「ジュニアで次々とトップ選手が生まれる一方、厳しい練習環境にあることも知った」。飛び込みへの支援策としてプール近くに室内練習場をつくることが決まった。
施設は17年に完成。2本の飛び板や高さ3メートルの飛び込み台のほか、立方体のウレタンを敷き詰めた国内最大規模のピット(縦横6メートル、深さ2メートル)などが設けられ、練習環境は飛躍的に向上した。
県水泳連盟のフォローもあった。飛び込みや水球、アーティスティックスイミングなど、選手の少ない競技を支える役目も帯びた連盟直轄クラブ「高知SC」はサポートの一環となる。
連盟の中西清二会長(72)はこれまでの飛び込み勢の活躍をたたえつつ、「春先までは(水に入る)練習のための遠征を強いられる。困難な状況に、もっと後押しができたら」とさらなる支援を思案する。
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約70年前、高知市営プールに完成した飛び込み台を起点に、歴史が始まった高知の飛び込み。多くの人の思いが幾重にも重なり、水紋のように広がった努力が結実しつつある。
飛び込み県勢として53年ぶりに五輪に出場する宮本葉月(20)。彼女の挑戦で、高知の飛び込み界の新たな戦いも、また始まる。(吉川博之)
=おわり