2021.07.10 08:00
【盛り土崩落】災害抑止へ規制の強化を
土石流の起点になった土地には、谷を埋めるように大量の建設残土が持ち込まれ、その盛り土などが大雨によって崩れ落ちた。
条例で義務付けられた排水設備が未設置だった疑いも浮上している。今回の土石流には「人災」の側面があったのか。盛り土崩落に至る経緯を徹底的に検証する必要がある。
土石流は3日午前に発生した。逢初(あいぞめ)川に沿って住宅を押し流しながら、約2キロ下の伊豆山港まで到達。120棟以上が被災し、安否不明者の捜索が続いている。
国土地理院の推計では、盛り土のうち85%に当たる約4・8万立方メートルが流出した。土石流の量は約5・6万立方メートルと判明しており、盛り土が大半を占めていたことになる。
起点になった土地は、2006年に神奈川県小田原市の不動産管理会社(清算)が取得し、07年に熱海市に盛り土の届け出をした。
工事はずさんだった。会社は産業廃棄物や木くずをまぜるなどの不適切行為を繰り返し、静岡県と熱海市から再三の行政指導を受けていた。
盛り土の高さは09年時点の計画書では15メートルだったが、土石流の発生直前には約50メートルに達していた。
計画書では排水のための管を地中に通すことにもなっていたが、県が崩落後の写真などを見たところ、設備の痕跡は確認できなかった。
県は「不適切な工法が行われていた可能性がある」とみている。
盛り土の工法と災害発生に因果関係はあるのか。今後、土木技術や防災の専門家らによる調査と分析で、原因を究明しなければならない。
一方で、県と市は盛り土に問題があることを認識しながら、結果的に災害発生は防げなかったと言える。
土地は、不適切な盛り土があるままで転売されていた。リスクが見逃された形で、土砂災害を防ぐ対策を目指すならば、自治体の条例に基づく対応では限界がある。
現状では、盛り土は場所や目的によって適用される法律、監督官庁が異なっている。国レベルの一元的な法規制を設け、建設残土の処理などを管理していく必要があろう。
今回の災害を受けて、国土交通省は全国にある盛り土の位置や数を調べ、崩落の恐れがあるかの点検も進める。標高の変化を把握しやすいデジタル地図を活用するという。
高知県でも宅地開発などで多くの盛り土が行われている。専門家は、県内にも熱海の現場と「似たような地形がある」と指摘している。
土砂災害の恐れがある場所で、さらにリスクを高めるような土地利用や開発が行われていないか。自治体による点検は膨大な作業になるだろうが、細かくチェックすべきだ。
不適切な盛り土などが疑われる事例について、地域住民も情報を持っていよう。自治体はそうした声も吸い上げながら、危険箇所のリストアップを急がなければならない。