2020.06.09 08:40
虚ろな税 奈半利事件の実相(2)原点 なんちゃあない町
奈半利町長を2018年まで4期16年務めた斉藤一孝(68)が、ふるさと納税の黎明(れいめい)期を振り返る。町を揺るがす事件につながる制度は、ほのぼのとした雰囲気で始まった。
応援したい自治体に寄付すれば、その分、住民税などが控除される―。2008年の制度開始後、奈半利町に最初に届いた寄付は出身者からの10万円だった。
斉藤は礼状とともに町長交際費でキンメダイを送った。「返礼品は寄付額の3割以内」というルールもないころ。以降、2万円以上の寄付には1万5千円相当の産品を送るようにした。
当時から「採算は度外視」(斉藤)。返礼率は高かった。「実家からの仕送り」をイメージし、コメや野菜、カツオなどを、奈半利町の風景を描いた段ボール箱に詰めていた。
「奈半利はなんちゃあ(なんにも)ない町。土産の一つもない町を応援してくれる気持ちが、うんとうれしゅうてね」
奈半利町の近隣には、ユズ製品で全国的に知られる馬路村や北川村、老舗の酒蔵を擁する安田町、田野町がある。奈半利にはこれといった産業がなく、送る産品も限られていた。
ところが、地方を巡る状況が変わり始めた。…