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1997.09.17 08:01

こうちカワウソ今昔 第3部(7-終) 夢を次代に引き継ごう

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 ニホンカワウソの悲劇を繰り返さないために、私たちは野生動物に対して何ができるのか。そのことを考え続けてきたグループがある。「森の回廊・四国」準備会。結論はこうだ。

 「生きものたちが自由に行き来できる道を、四国中に張りめぐらせよう」

    ◇

 言い出しっぺの一人が森林総合研究所四国支所の山崎三郎連絡調整室長(59)=高知市十津。林業とカモシカの共存の在り方を求めて調査を進めるうち、かつては石鎚山系などにもいたカモシカが、今は剣山系だけに閉じ込められていることに気づいた。ツキノワグマも同様だ。

 分断され、孤立化した生きものたちの生活圏を自然樹林帯でつなげられないか。準備会は、この考えに賛同した自然保護関係者ら十二人で二月に旗揚げ。素案を練り上げてきた。

 出来上がった「森の回廊」構想はこうだ。

 まず石鎚山系と剣山系を核に、足摺岬と室戸岬を結ぶメーンルートをつくる。そこからサブルートを延ばしてX字状の回廊(コリドー)を設定。さらに点在する天然林を結び、四国全体に回廊を網の目状にめぐらせる。目標は二百年先の二一九七年。いずれは世界文化遺産への登録も目指すというから夢は大きい。

 同様の試みはオランダなど外国でも進んでおり、国内では一足先に東北で同様の構想が打ち出されている。ただ、天然林の多い東北と違って、四国は人工林が圧倒的。民有林率も高い。クリアすべき問題は多いが、山崎さんは「だからこそ」と力を込める。

 「東北と違って四国の山は急しゅん。海岸から標高二千メートル近くまで、その高さに適応した植物が垂直分布し、そこに適したさまざまな動物がすんでいる。より多様性をもった豊かな回廊ができます。決して実現不可能な夢じゃない」

 運動の手始めにこのほど、高知市立自由民権記念館で開いたフォーラムには約二百人が詰め掛けた。発言者の一人は「カワウソのような生物を出さないために何をするかを考えよう」と呼び掛けた。会場からは「ずっと前から同じ事を考えていた。大賛成だ。希望をもって次の世代につなごう」の声が返り、主催者を大いに勇気づけた。

    ◇

 こうして動き始めた「森の回廊・四国」構想だが、焦点距離は二百年先。絶滅にひんするカワウソには到底手が届かないし、ツキノワグマにしても、保護には別途に具体的な手立てが必要だろう。それは別にして、考えなければならないことがある。

 危ないのはカワウソだけか。ほかでも同じことが起きているのではないか。カワウソが消えた水辺、クマが住めない森はどこか病んでいるのではないか。カワウソだけに目を奪われず、背後にある自然環境全体にしっかり目を向けたい。

 カワウソが消えた後に何を残せるかも問われている。生息調査と並行して、散逸しつつある標本や資料の整理、保存に早く手を付けなければならない。将来高知県に本格的な博物館ができるとすれば、その一室はカワウソに当てられるべきだ。

 さらに関係者の間には、野生動物に関する調査研究や情報収集を一括して扱う研究機関や施設を望む声がある。県立牧野植物園の、いわば動物版。高知県にはほ乳類の専門家がおらず、この分野が弱いとされるだけに将来に向けて考えたい課題だ。

 夢物語に近づいたといわれるカワウソだが、「ひょっとしたら…」の夢が見られるのは日本全国で高知だけということを忘れてはならない。夢を次の世代に引き継ぐために今、何ができるかを考えたい。(社会部・松岡和也)

  =シリーズおわり

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