2021.10.03 08:00
【ドイツ連立交渉】「メルケル後」の重い責任
第1党は中道左派の社会民主党(SPD)が獲得した。メルケル氏が所属する保守のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は第2党に転落した。
最低賃金引き上げや高所得者への増税などを掲げたSPDは、前回得票を上回る支持を得た。首相候補ショルツ財務相は、連立を組むメルケル政権の重要閣僚として手堅い手腕を発揮し、新型コロナウイルス対策でも評価された。一方、歴史的な敗北となったCDU・CSUは、ラシェット党首が洪水被災地で大笑いして批判を浴びた。
二大政党に明暗はあるものの、得票率はともに3割を下回っている。「メルケル後」を担う責任は重い。その力量に、有権者は信任とはほど遠い判断を示した。政権運営の厳しさをうかがわせる結果となった。
ショルツ氏とラシェット氏はともに、年内の新政権樹立に意欲を示す。どちらが政権を担うにしても、連立する政党の動向が鍵を握る。
視野に入るのは、3位となった環境保護政党「緑の党」、4位で経済界に近い中道の自由民主党(FDP)との3党連合のようだ。ただ、党の性格の違いから政策の擦り合わせは簡単ではなく、決着には一定の時間がかかるとみられている。
今夏の大災害で環境問題への意識が高まり、温暖化対策は選挙の主要論点となっていた。第3党となった緑の党も首相候補の失態がブレーキとなったが、対策強化を求める若者の支持で躍進した。
脱炭素化への関心は連立協議にも影響しそうだ。その方策や時期を巡って、経済活動との兼ね合いを見計らいながら各党の妥協点を探る交渉が続くことになる。
引退するメルケル氏は約16年の在任中、堅実な政策運営で国民の信頼を得た。金融危機などに対応して「欧州の盟主」と称された。
前政権からの経済回復を軌道に乗せ、人権より実利優先と評される場面もあるが、経済大国として欧州連合(EU)での発言力を維持した。徴兵制を廃止し、東京電力福島第1原発事故を受けて脱原発にかじを切る。同性婚容認などSPDのリベラルな政策を柔軟に取り込んだ。
自由や民主主義を擁護する姿勢は、2015年の難民や移民の受け入れ決断に表れる。しかし、治安への不安が広がって右派勢力の台頭を許し、引退表明につながった。
新政権が基本政策を大きく変更することはないとみられているが、組み合わせ次第で対応は異なってくる。経済で強く結びつく中国や、エネルギーを頼るロシアとの関係をどう位置付けるのか。
EUとの路線の模索や、対日関係に新たな動きが出ることも想定される。評価に波があったとはいえ、メルケル氏の存在感は大きかった。どう変化するのか注視したい。