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2021.07.16 08:00

【「黒い雨」判決】政治判断で救済を広く

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広島への原爆投下直後に降った「黒い雨」を浴びた住民を幅広く救済する判決だ。
 住民が広島県と広島市に被爆者健康手帳の交付を求めた訴訟で、広島高裁は全員を被爆者と認定した一審判決を支持し、交付を命じた。救済対象とならない特例区域外にいた人も、雨により健康被害が生じた可能性があれば被爆者だと位置付けた。
 被爆者援護法の救済理念を尊重した積極的な判断を評価したい。国は援護行政の見直しを改めて迫られた。原告は高齢化が進み、亡くなった人もいる。国は援護区域線引きの妥当性が否定されたことを重く受け止め、政治判断により早期の救済へ踏み出すべきだ。
 爆心地周辺の援護区域にいた人は手帳が交付され、医療費の自己負担分が無料になる。一方、その外側にある特例区域にいた人は、無料の健康診断が受けられるものの、手帳交付は11の特定の病気を発症した場合に限られる。特例区域のさらに外側にいた原告らには交付されておらず集団提訴に踏み切った。
 控訴審では、援護法が「放射能の影響を受けるような事情の下にあった」と定める被爆者認定要件について、国側は科学的知見に基づく高いレベルの証明が必要と主張した。
 これに対して判決は、「放射能による健康被害が否定できないことを立証すれば足りる」との判断を示した。その上で、原告らは直接雨に打たれた外部被ばくと、雨に含まれる放射性物質が混入した井戸水や野菜を摂取した内部被ばくにより健康被害を受けた可能性があると指摘し、国側の主張を退けている。
 確かに、国側が言うように被爆者認定には合理的な理由が欠かせない。しかし、被ばくと病気との因果関係を証明するのは簡単ではない。それにもかかわらず要求するようでは、国側の姿勢は救済範囲を広げたくないと受け止められる。全面的な援護は遠のくばかりだ。
 判決は、特定の病気の発症を被爆者認定の要件とした一審判決からさらに踏み込んだ。発症を条件とはせず、健康被害が生じる可能性があれば認定できると判断した。一審判決以上に被爆地の思いに寄り添った高裁判決と受け止められているのも当然だろう。
 県と市が行った住民調査では、降雨域は特例区域よりも広く、雨の体験者は被爆者と同様の健康問題を抱えている。判決は、黒い雨は特例区域より広い範囲に降ったと判断し、特例区域外にいた原告らも黒い雨の被害にあったと一審に続き認めた。区域の拡大が実現すれば救済対象は大幅に広がっていく。
 県と市は長年、特例区域の拡大を訴えてきた。手帳の交付事務を担うため、国の意向で検証を条件に控訴を受け入れた経緯がある。
 一審判決後、厚生労働省は要望を受け、降雨域や健康への影響を検証する有識者会議を設けている。しかし協議は難航しているようだ。政治判断で幅広い救済に努め、苦痛の軽減を図るときだ。

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