2021.07.11 08:00
【NHK経営委】番組介入は認められない
NHK経営委員会が2018年に当時の上田良一NHK会長を厳重注意した問題を巡り、開示した経営委議事録は、番組内容に踏み込んで批判が繰り返されている。
公共放送の独立性をゆがめてはならない。森下俊三経営委員長は一貫して放送法違反を否定し、番組への介入は一切ないと述べている。そうした答弁との整合性が改めて問われることになる。
かんぽ生命保険の不正販売問題を報じたNHKの番組「クローズアップ現代+」の内容に、日本郵政グループから抗議を受けての対応だった。郵政側は19年、不正販売を認め、当時の日本郵政社長が謝罪している。郵政側が報道を受けてすぐに事実関係を調べれば顧客の不利益を縮小できたかもしれないが、謙虚には向き合っていなかった。
郵政側は抗議を重ねていた。経営委は、会長ら執行部への指導監督を行うNHKの最高意思決定機関に当たる。厳重注意を受けた会長は事実上謝罪している。
経営委の判断は番組編集の自由を損なっていないか、検証する必要がある。受信料で成り立つ公共放送に透明性は不可欠だ。市民団体や報道機関は議事録の開示を求めてきた。それにもかかわらず、経営委は公表を前提に議論していないとして概要のみにとどめていた。
昨年5月には、NHK情報公開・個人情報保護審議委員会が全面開示すべきだと答申したが応じなかった。今年2月に再び審議委が全面開示を答申したほか、6月には開示を求めて大学教授らが東京地裁に提訴していた。
ようやく開示された議事録では、森下委員長(当時は委員長代行)は石原進委員長(当時)と共に会長への注意を主導した。番組内容や、その後にインターネット上で情報提供を求めた取材手法を、「極めて稚拙」「作り方に問題がある」などと批判を繰り返している。
その一方で、番組への介入が放送法に抵触することは認識していたようだ。それを避けようとする発言もみられ、論点を郵政側が問題視したガバナンス(企業統治)の欠如に置き換えている。
放送法を意識して番組内容を直接批判する態度は覆い隠しながら、放送の自主自立に踏み込もうとする思惑を感じさせる。議事録の全面開示を拒んで概要にとどめたのも、こうしたことが表面化することを回避したかったのかと疑念は膨らむ。
当時の上田会長は、公になれば「非常に大きな問題になる」と抵抗している。厳重注意は現場を萎縮させ、それだけで番組介入に等しいとする見方もある。
厳重注意の問題は、情報開示を拒んだ経営委の姿勢も含め公共放送を担うNHKへの信頼を揺るがせた。経営委の在り方や委員の選任についても検証する必要がある。