2021.07.09 08:00

【東京五輪】緊急事態なら中止が筋だ

 政府は4度目の新型コロナウイルス緊急事態宣言を東京都に発令することを決めた。期間は12日から来月22日までで、東京五輪の開催期間と完全に重なる。
 これを受けて、政府や大会組織委員会などは5者協議で東京都を無観客にする方針を決めた。しかし、そもそも緊急事態宣言のさなかに、五輪開催が妥当かという疑問は拭いきれない。
 五輪の規模はほかのスポーツイベントと異なる。無観客でも関係者らの入国で人の流れは増え、感染リスクの増大は避けられない。国民の命や健康への影響が懸念される状況では五輪を中止するのが筋である。
 開催都市、東京の感染再拡大は誰の目にも明らかだ。3度目の宣言は6月20日に解除されたばかりだが、新規感染者が前週の同じ曜日を上回る状況は2週間以上も続く。まん延防止等重点措置の効果も、感染力が強いインド由来のデルタ株の広がりに追いついていない。
 政府が東京都への宣言発令、五輪の無観客開催を決めたのも、厳しい感染状況に追い込まれたというのが実情だろう。
 専門家は以前から厳しい予測を示してきた。6月末の試算でも都内の新規感染者は7月前半に千人を超え、五輪期間中に医療体制が逼迫(ひっぱく)する恐れを指摘していた。夏休みやお盆など人の流れが増える季節要因も考慮してのことだ。
 政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は国会で、世界的大流行の状況で「(五輪を)やるのは普通はない」と警鐘を鳴らした経緯もある。
 だが菅政権は、6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)で各国首脳から五輪・パラリンピックへの支持を取り付け、感染を不安視する世論を背景にした開催の是非論を「国際公約」で結果的に封じ込める形となった。
 五輪成功を衆院選の弾みにする思惑を捨てきれなかったのだろう。「無観客も辞さない」としつつ、重点措置の延長でしのぐ戦略でぎりぎりまで有観客開催を探っていた。
 現時点では、ほぼ専門家の予測通りに感染者が増えている。接種を急ぐワクチン効果を当て込んだ希望的観測が裏目に出たと言ってよい。国民の不安や専門家の知見を顧みず、開催直前になって場当たり的な対応を繰り返す政府の責任は重い。
 ただ、無観客も次善の策でしかないだろう。世界の大規模イベントを見ても、コロナ禍で菅義偉首相の言う安全安心な大会の実現は極めて困難だ。
 サッカー欧州選手権では日本よりワクチン接種が進んだ状況にもかかわらず、観戦した約2千人が感染した試合もあった。無観客で開かれたサッカー南米選手権も選手ら約170人が感染。東京五輪と同様、外部との接触を断つ「バブル方式」で防げなかった。
 東京五輪でも感染拡大を想定しないわけにはいかない。私たちは今、世界的な危機の中にいることを忘れてはならない。

カテゴリー: 社説

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