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2021.06.22 08:00

【五輪観客1万人】軽んじられた科学的知見

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 無観客が望ましいと専門家が提言する大会会場に最大1万人を収容する。その判断に科学的な知見はどう反映されたのだろう。
 東京五輪・パラリンピックに向けた大会組織委員会や政府などの5者協議で、五輪観客数の上限を会場定員の50%以内で、最大1万人とすると決めた。
 五輪開幕まで1カ月近くとなって観客の扱いが固まることに、開催の厳しさが見て取れる。緊急事態宣言などが再発令された場合は、無観客も含めた対応を確認したという。
 先の先進7カ国首脳会議(G7サミット)は、首脳声明に五輪開催への支持を明記した。菅義偉首相は、観客を入れての開催を帰国後に表明している。有観客への前のめりの姿勢は鮮明だ。
 「第4波」の感染者数は減少している。緊急事態宣言は沖縄を除いて解除され、まん延防止等重点措置は宣言からの移行を合わせ10都道府県になった。ワクチン接種は企業や大学で始まり、64歳以下でも進む。
 政府は宣言と重点措置の解除後は、1カ月程度はイベントの観客数を定員の50%以内であれば上限を1万人とすることを決めた。これについて政府の感染症対策分科会の尾身茂会長は、五輪の観客の議論とは関係ないことを政府に確認したと明らかにしている。それにもかかわらず、五輪観客数が経過措置に準じた決定となったことは、新たに検討した結果というより、当初からの狙いだったように見える。
 尾身氏ら専門家有志が政府、大会組織委に提出した提言は、無観客が最もリスクが低く、望ましいとしている。国立感染症研究所などは、有観客で感染拡大が懸念されるとする試算を示した。
 提言は、観客を入れる場合は、他の大規模イベントの基準よりも厳しい上限を設けることなどを求めた。注目度が高い五輪の特殊性を考えれば、通常のイベント基準では警戒感を薄れさせ、感染再拡大が危惧されるからだろう。
 尾身氏らは当初は、開催の有無を含めて検討を求める意向だったが、G7サミットで開催を表明したため取りやめたことを明かしている。さらに提言前に首相が有観客開催を表明するなど、提言内容を薄めさせようとする意図が浮かび上がる。
 政府や組織委は大会規模の縮減に努めることや、観客に直行直帰を促す方針を示す。パブリックビューイング会場での競技中継中止を東京都などが決め、人の流れの抑制を図ろうとする動きも出ている。
 それでも警戒感は根強い。共同通信社の世論調査は、五輪開催で感染が拡大する不安を「ある程度」を含め「感じている」とする回答が86%に上った。また、4割が無観客での開催、3割は中止を望んでいる。
 「安全安心」「国民の命と健康を守る」とする首相の言葉は届いていない。ワクチン接種の加速と五輪開催で衆院選への支持拡大へつなげたいのだろうが、科学的知見と向き合うのが先だ。

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