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2021.05.19 08:00

【建設石綿判決】救済を早期に、より広く

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 建設現場でのアスベスト(石綿)被害を巡る訴訟で、最高裁は国に賠償責任を認める判決を出した。必要な対策を29年間放置していたとして「違法」と断罪した。
 全国で約1200人が争う訴訟で初の統一判断となる。菅義偉首相は訴訟の原告らと面会し謝罪した。政府と原告団は、和解に向けた基本合意書に調印した。
 与党プロジェクトチームがまとめた和解案を踏まえ、政府は未提訴の被害者も対象とする方向という。早期のより広い救済へとつなげたい。
 石綿は丈夫で安価なことから建材などに使われ、健康被害を引き起こしてきた。建設現場で粉じんを吸い込み、肺がんや中皮腫などになった元労働者や遺族が、国や建材メーカーに損害賠償を求めて2008年以降、各地で順次提訴した。
 最高裁判決は、国は規制が強化された1975年以降、石綿の危険性やマスク着用の必要性について、建材への表示や建設現場での掲示を指導監督すべきだったと指摘した。それにもかかわらず、法令で石綿の使用を広く禁じた2004年まで対応しなかったのは「著しく合理性を欠く」と批判した。対策を怠った国の責任は重い。
 また、「一人親方」と呼ばれる個人事業主らについても、労働安全衛生法上の保護対象となる「労働者」ではないものの、国の責任に踏み込んだ。健康障害は、会社に属する労働者か否かによって変わらないとの認識に基づき、ほかの労働者と同じ立場で救済を打ち出した。法の趣旨を積極的に解釈した判断であり、評価したい。
 一方、建材メーカーの責任も一部認めたが、被害者の作業内容や従事期間などを踏まえて個別に審査する必要があるとした。しかし、原告が病気になった原因をどこのメーカーの建材からかを立証するのは難しい。建設現場を渡り歩けばどこの製品かは一段と分かりにくくなる。それを解明しようとすると、さらに時間がかかりかねない。
 判決を受け、訴訟の早期解決を目指す与党プロジェクトチームがまとめた和解案は、被害者1人当たり最大1300万円の和解金を支払うとする。未提訴の被害者救済へ、和解金と同水準の給付金を支給する制度を議員立法で創設する考えという。前向きな対応を望みたい。
 ただ、国とメーカーの共同出資による基金創設が検討されたようだが、企業ごとに責任に対する認識の違いがあり、簡単にはまとまりそうもない。国の責任に基づいて給付金を支払う方向で動いているとはいえ、その先はまだ不透明だ。
 石綿被害は潜伏期間が数十年になり「静かな時限爆弾」と呼ばれる。新たな発症者が今後も増えると予測される厳しい状況だ。
 また、石綿が残る建物の老朽化に伴う解体も今後、本格化することになる。その際に飛び散る恐れがあり、対策が不十分なままだと新たな被害を招きかねない。事前調査の充実をはじめ、対応を急ぎたい。

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