2016.05.22 08:35

奇跡の笑顔 全盲・重複障害を生きる(6)正体は「ゴルツ症候群」

カルテを見ながら音十愛ちゃんの緊急入院のことを語る高知大医学部小児科・藤枝幹也教授
カルテを見ながら音十愛ちゃんの緊急入院のことを語る高知大医学部小児科・藤枝幹也教授
 「死ぬかもしれない」と思って高知大医学部付属病院へ飛び込んだ山崎音十愛ちゃんの母、理恵さん(49)だったが、小児外来で診察した藤枝幹也医師(57)=現教授=はそれほど深刻な事態とはとらえてなかった。

 「血液検査のデータがめちゃくちゃ悪いとか、息も絶え絶え、とかではなかったみたいなんです」。カルテを見ながら10年前の記憶をたぐった。

 「脱水兆候がある程度。今飲ませているミルクでちょっと頑張ってみましょう、と家に帰ってもらってますから。命に関わるとはみてなかったようですね」

 だが、夕方、検査結果を見直しているうちに「あれっ!?」となった。腎臓の数値が悪いのだ。翌朝、連絡して再検査。高カルシウム血症が判明した。血液中のカルシウムの蓄積が多く、さらに腎障害が進む恐れがあり即、入院。母も付き添うことになった。

 2006年1月14日。満1歳が目前だった。「ちょっと視界が開けたような気がしました。なんでこんなに弱っていくのかと不安で仕方なかったんです」と理恵さん。兄姉(きょうだい)に寂しい思いをさせるのはつらかったが、やっと体を休めることができる。

 「看護師さんとかが処置してくれるでしょ。お風呂も入れてもらえる。ある意味、オアシスでした、昼間はね。だけど、夜は地獄なんですよ」と声を押し殺した。どういうことか。

 「音十愛が寝てくれないんです。消灯になると、泣き声が響き渡るんです。相部屋でカーテン1枚。迷惑かけるというストレスがものすごくて、夜が来るのが怖かった」

 バギーに乗せて、人けの消えた廊下をさまよい、奥まった所にある外来待合室の長いすで横になって体を休めた。「バギーを揺らしても揺らしても、なかなか寝てくれなかった。真っ暗。静か。誰も通らない。音十愛の泣き声だけ。怖いですよ。たまにガードマンの巡回があってドキッとするんです」

    ◇  ◇
 入院1カ月がたったころ、主治医の矢野哲也医師(現宿毛市・大井田病院)から思わぬ知らせが入った。本来の病名が分かったのだ。それは「ゴルツ症候群」。遺伝子の突然変異だった。

 音十愛ちゃんには三つの特徴があった。背中に茶色の色素沈着があり、歯の表面のエナメル質がなく、無眼球。症状に見合う病名を探していくと慶応大、小崎健次郎助教授(当時)の文献にたどりつき「EEC症候群では?」と問い合わせたら、「いや、ゴルツ症候群のような気がする」と返信。後日、母子は東京を訪ねて確定診断を受けた。

 「僕も初耳でした。全国で数百例しか報告がないですからねえ」と藤枝教授。

 理恵さんが東京で聞いた話では、症状はいろいろで、どうなるかは分からない。無眼球を併発している場合、知的障害も出るらしいが、予後的にはそれほど悪い例はない―ということだった。「少しだけ安心しました。原因不明ほど不安なことはなかった。これで前へ進めるというか」

 そして入院2カ月半。3800グラムまで落ち込んだ音十愛ちゃんの体重は5700グラムに増加。退院した。

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