2025.12.15 09:28
【全文公開】『釣りという幸せ 高知のアングラー・リレーエッセー』(134) 続・ニロギ おばあちゃんのみそ汁 弘瀬伸洋(理髪店「床屋」店主=高知市瀬戸1丁目)
この欄でニロギ釣りについて書いたところ、予想以上の反響があった。
「ニロギの話は良かったぞねぇ。昔を思い出してうれしゅうなったわねぇ」

いろいろな所でこんな声を聞いた。
そんなある日、新聞を見た女性から電話を頂いた。「ニロギの手に入る所はないでしょうか?」と言う。
聞くに、90歳になる女性のお父さんはニロギが大好き。「食べたい物は?」と聞くと、いつも決まって「ニロギの吸い物」と、口にするという。しかし最近はあまり売っていないため、新聞のエッセーを見て、電話をくれたというのである。
思い出したのは、母方のおばあちゃんのことだった。私は小さいころ、おばあちゃんと過ごすことが多く、みそ汁の香りと、具を刻む音で目覚める朝が好きだった。
ある朝、台所に行くと、「のぶ、これ見て」と、容器に入ったニロギを見せてくれた。

高知の人々にとって、ニロギ釣りの思い出は特別だ
「ばーちゃんこれどうしたが?」
「さっき釣ったがぞね!」
「今度、連れていって!」
「かまんけんど、起きれるかえ?」
数日後のまだ暗い早朝。おばあちゃんは三輪の付いた自転車に、釣り道具と私を乗せ、御畳瀬漁港へとペダルをこいでいた。岸壁に着くと、常連のおじさんが「ボク、朝からえらいねぇ」と声を掛けてくれる。
手際良く釣るおばあちゃん。次々に、ニロギを釣り、小さなクーラーボックスに収めていく。見てるだけで楽しかった。1時間ほど釣ると、また三輪車に荷物と私を積んで帰り、ニロギのみそ汁を作ってくれた。
今思うと、釣りが好きで、少しせっかちで、食べ物を大切にする姿勢は、この頃に学んだように思う。おばあちゃんは、先月99歳で亡くなった。
冒頭の女性からの電話を受け、私は何かが「つながった」ように思えた。高齢のお父さんのため、できることをしたいという女性の気持ちが伝わってきたし、私のおばあちゃんなら「力になってあげなさい」と言うだろう。
数日後、私は1時間竿(さお)を出し、女性にニロギを差し上げた。とても、喜んでいただいた。
来年の秋、またニロギが釣れたら、連絡しますね。




















