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2024.06.19 05:00

小社会 自然に還す

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 昨年亡くなった坂本龍一さんの最後の著作「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」。その表紙を飾ったのは、風雨にさらされて塗装が剥がれたピアノだった。

 「自然に還(かえ)すための実験」と称し、ピアノを野ざらしで自宅の庭に置いたという。「どう朽ちていくのか―それは、ぼくたち人間のあるべき老い方とも繋(つな)がるように感じます」

 亡くなる1カ月前、神宮外苑再開発に反対する手紙を都知事らに送った。「目の前の経済的利益のために先人が100年をかけて守り育ててきた貴重な神宮の樹々(きぎ)を犠牲にすべきではありません」

 2007年には森林保全団体「モア・トゥリーズ」を創設。梼原町や中土佐町の森林整備も支援してきた。その大野見の山林で先月、伐採体験があった。ミシミシ―。立派に育った樹齢60年ほどのヒノキが伐倒されていく。

 国が外材輸入の全面自由化に踏み切ったのは、神宮外苑で東京五輪が開かれた1964年だった。それから60年。資金不足で間伐が行き届かなくなった森は薄暗くなり、あちこちの山は荒れた。そんな中、大野見のこの山林は「モア―」の支援で手が入れられてきた。

 下草や低層の広葉樹が広がる斜面に朽ちかけた木板があった。「モア―」の看板だった。自然に還るように塗装はされておらず、字はほとんど読めなかった。自らが朽ち果てようとも、大切なものを次世代に引き継ぐ。そんな思いに触れた気がした。

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