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2024.01.12 08:00

小社会 唐突で不条理な揺れ

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大きな地震が起こるたび、決まって思い出す小説がある。村上春樹さんの短編「眠り」である。眠ることのできなくなった女性の話だ。

 もう彼女は17日間も睡眠を取っていない。夫と息子と暮らす。彼らとは何ら変わりない家庭生活を営みながら、不眠の日々を過ごしている。心身に不調はなく、むしろ以前よりも健全で充足していた。

 女性は不眠に戸惑いながら、こんなふうに考えた。〈私は人生を拡大しているのだ〉と。そして独身の時のように本を読むことに集中する。トルストイの「アンナ・カレーニナ」、ドストエフスキーの長大な小説…。それはかつての自分を取り戻す時間でもあった。

 しかし破局がやって来る。深夜のドライブに出掛けて公園の駐車場に車を止めた。そこに2人の男が現れて彼女の車を揺さぶり始める。訳が分からない。まるで車をひっくり返そうとするかのような激しいものだ。発車させることもできない。

 これは得体(えたい)の知れぬ男たちの悪意によって引き起こされた「揺れ」である。天変地異である地震とは違う。しかし彼女が見舞われている「揺れ」は、その唐突と不条理さにおいて、同質なものであろう。

 能登の巨大地震は私たちが住んでいる土地までを揺さぶった。地盤に永遠の安定はない。平穏は不条理に突然失われる。作中の女性は〈何かが間違っている〉と憤りながら孤独な夜の闇の中で諦めるほかない。そしてただ涙を流す。

高知のニュース 小社会

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