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2023.12.26 08:00

【市販薬の乱用】不安な若者をどう支える

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 薬局やドラッグストアなどで気軽に入手できる一般用医薬品(市販薬)を過剰に摂取する「オーバードーズ(OD)」が近年、若者を中心に増加し、社会問題化している。背景には若者らが抱える不安や孤独感が指摘される。
 厚生労働省の検討会が、依存性のある成分を含んだ市販薬の多量購入を禁じる制度見直し案を大筋で了承した。医薬品医療機器法が改正されれば一定の抑止力は期待されるが、抜本的な防止策とはなるまい。規制の強化とともに、地道に注意喚起や相談窓口の充実を図りたい。
 市販薬は比較的安全性が高いとされるが、それはあくまで用量や用法を守った場合だ。一般の風邪薬やせき止めも意図して大量に服用することは、健康や命に関わる極めて危険な行為だ。一時的な高揚感や多幸感は得られても、幻覚や意識混濁、けいれんといった症状を引き起こしかねない。臓器不全で死に至るケースもあるという。
 救急搬送される事例も相次ぐ。厚労省研究班がまとめた初の疫学調査によると、2021年5月から22年12月、全国の7救急医療機関に122人の急性中毒患者が運ばれた。平均年齢は25・8歳で、8割近くが女性だった。東京都内では今月、児童2人が搬送されている。若年層にODが広く深く、まん延している恐れは否めない。
 厚労省は、市販薬に含まれる成分の一部を「乱用等の恐れがある医薬品」に指定している。販売者には現在も、若者の購入時に年齢確認を徹底するよう呼び掛けるが、製品の容量に関する規制はなかった。
 今回の見直し案は、その穴埋めを図る。20歳未満への販売は小容量の製品1個に制限。写真付き身分証などでの年齢確認、販売記録の保存を義務付ける。20歳以上でも複数、大容量製品の販売は同様の対応とする。疫学調査でも6割以上が実店舗で購入しており、販売の厳格化で一定の効果は期待できそうだ。
 ただ、市販薬を手軽に購入できる意味合いを踏まえれば、販売面からの防止策には現実的に限界があるのではないか。市販薬の入手方法などODに関する情報交換のための交流サイト(SNS)のグループもあるほか、複数店舗での購入や転売を防ぐのは容易ではない。
 根本的な問題も残る。専門家は背景として若者が抱える不安や悩み、孤独感を指摘する。疫学調査でも搬送患者の多くが「自傷・自殺」に加え、現実逃避やストレス発散などを理由に挙げていた。
 弱った心に市販薬の手軽さが結びついたのがODだとすれば、市販薬対策だけでは安心できない。薬物への抵抗感が下がって大麻や覚醒剤などの違法薬物に進んだり、自殺につながったりする可能性がある。
 国内の自殺者数は年間2万人を超え、高止まりの状況だ。若年層への違法薬物の広がりも懸念される。それぞれの規制強化はもとより、不安を抱える若者をどう支えるか、社会の在り方も問われている。

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