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2023.12.08 08:00

小社会 開戦の日記

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 故ドナルド・キーンさんは著書「日本人の戦争」で、日本の文士たちが戦争中に書いた日記を考察している。異質なのは永井荷風。軍部への反感を連ねた動機を、キーンさんは「軍部が始めた戦争が好物である英国の紅茶を奪ったから」とみる。

 対米英開戦の4日後。荷風は、東京の至る所で目にするポスターにいら立つ。〈屠(ほふ)れ英米我等(われら)の敵だ。進め一億火の玉だとあり。現代の人の作文には何だの彼(か)だのと駄の字をつけて調子を取る癖あり。駄句駄字と謂(い)ふべし〉

 むろん冷静な荷風は少数派だった。多くの作家、または後の作家は開戦に高揚した。キーンさんは特に戦後、柔和な紳士として交際した伊藤整の〈大和民族が、地球の上では、もっともすぐれた民族〉という日記にショックを受けたという。

 開戦は軍部だけの独走とも言い切れないといわれる。多くの国民は緒戦の勝利に喝采し、新聞も戦争をあおった。情報が統制され、徐々に物言えぬ世の中になっていった時代の空気は、文士らも無縁ではなかったのだろう。

 「新しい戦前」という言葉が波紋を広げて1年になる。まともな議論もなく防衛費増と増税方針が表明されたのは去年の今ごろ。ことしは、時の政権中枢が「けしからん番組は取り締まる」と発言したとされる放送法の解釈問題がうやむやにされた。

 荷風のように、いちいち引っ掛かっていく姿勢でありたい。82年前のきょうは開戦の日。

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