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2023.10.21 08:29

「やなせさんと文通」の秘話も 朝ドラ「あんぱん」脚本の中園ミホさん【コメント全文】

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 やなせたかしさんと妻、暢さんをモデルにした連続テレビ小説「あんぱん」の脚本を手掛ける中園ミホさんは、執筆に当たって発表したコメントで「小学生の私は、やなせさんと文通していました」と打ち明けた。暢さんのイメージについても、好奇心に目を輝かせ、「おなかがすいた~!」が口癖の「ドキンちゃん」と重ねた。中園さんのコメント全文は以下の通り。
 
©️NHK

©️NHK

 「ハチキンおのぶ」「韋駄天(いだてん)おのぶ」こと、小松暢さんをモデルにした朝田のぶがこのドラマのヒロインです。

 ハチキンとは、土佐弁で男勝りの女性のこと。県大会で優勝するほど脚が速く、行動力とスピード感にあふれ、人生の荒波をパワフルに乗り越えていくヒロインです。

 彼女は、あの「アンパンマン」に登場する「ドキンちゃん」のモデルといわれています。いつも好奇心に目を輝かせ、「おなかがすいた~!」というのが口癖のチャーミングな妖精です。

 そして、暢さんが生涯のパートナーとして選んだ男性は、漫画家で詩人の柳瀬嵩(やなせ・たかし)さん。彼ははっきり言って遅咲きの人です。日本中の子どもたちの間でアンパンマンが大人気となり、漫画家として世間に認められたのは、なんと70歳になってからでした。

 幼い時に父を病気で亡くしたやなせさんは、高知県の後免町にある伯父の家に引き取られ、やがて戦争が始まり、出兵します。

 終戦後の混乱期、二人は高知新聞社の編集部で記者として働いていましたが、暢さんは「私、先に東京へ行ってるから」と言い残し、さっさと新聞社を辞めていなくなります。彼女を追いかけるようにやなせさんも上京し、漫画家となるきっかけをつかむのです。

 こうして、暢さんは持ち前の行動力と飽くなき好奇心で、さまざまな職場を渡り歩き、手塚治虫、赤塚不二夫、いずみたく、向田邦子、青島幸男…などなど、才能豊かで個性的な人たちと出逢い、関わり合いながら、ちょっと気が弱くて自信のないやなせさんを励まし続けます。

 やなせさんの才能がいつか必ず開花することを信じていたパートナーの存在がなかったら、アンパンマンがこの世に誕生することもなかったかもしれません。

 「正義は逆転することがある。信じがたいことだが。じゃあ、逆転しない正義とは何か? 飢えて死にそうな人がいれば、一切れのパンをあげることだ」

 これはアンパンマンの神髄であり、二人が逆境や失敗をいくつも乗り越えて、つかんだ人生のテーマです。

 二人が最も輝いていたはずの青春期、戦争が始まりました。やなせさんはたった一人の弟(千尋さん)を戦争で亡くしました。戦場にも日本中にも飢えて死にそうな人があふれていました。

 だからこそ、晩年になってアンパンマンを書かずにいられなかったのだと思います。おなかをすかせて弱っている人に自分の頭をかじらせて元気にするヒーローです。

 初めは「自分の頭を食べさせるなんてグロテスク」とか「太っていてカッコわるい」と、まるで人気がなかったアンパンマンですが、たった一人、暢さんだけは応援し続けたのです。

 最後に、とても個人的な打ち明け話をします。

 アンパンマンが誕生するずっと前、小学生の私は、やなせさんと文通をしていました。「愛する歌」という詩集に感動して手紙を送ったところ、すぐにお返事をくださったのです。何度かお目にかかったこともあります。やなせさんはいつもやさしい笑顔を浮かべ、「元気ですか? おなかはすいていませんか?」と声をかけてくれました。

 戦後80年、放送開始から100年目にあたる2025年、連続テレビ小説で、のぶと嵩のお話を書かせていただけることに、今、私は幼いころのように胸を高鳴らせています。ドキンドキンと─。

高知のニュース まんが ひと・人物 アンパンマン

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