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2023.09.30 08:00

小社会 水俣病と猫

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 熊本地震が起きた年の秋、被災地から水俣市まで足を運んだことがある。穏やかな不知火海。水俣病を追い続ける熊本日日新聞の当時の論説主幹、高峰武さんの話で印象に残ったのは、猫だった。

 1954年の夏。同紙に「猫てんかんで全滅」という記事が載った。水俣の小さな漁村で100匹余りいた猫が全滅し、ネズミが急増。慌てた人々はあちこちから猫をもらってきたが、これも狂ったように死ぬ―。自然界の異変を伝えた最初の情報だった。

 ところが、2年後の公式確認まで関連する記事は出てこない。「検証記事があれば、事態の深刻化と人への影響なども分かった可能性がある」。高峰さんは後に著書で悔やんでいる。

 猫は事件史にさらに登場してくる。59年には、チッソの付属病院長が工場廃水を与えた猫の発症を確認した。しかし、社の判断で秘匿されている。高度経済成長の陰画とされる水俣病はこうした「隠蔽(いんぺい)」と、環境よりも産業を重視して対応が遅れた国などの「不作為」がキーワードとして浮かび上がる。

 救済策の是非が問われた訴訟で、大阪地裁は原告全員を水俣病と認めた。居住地や年齢を限定する国の線引きでは、まだ多くの被害者が救済対象からこぼれ落ちていることを示した形だ。国などは「矮小(わいしょう)化」もキーワードにしないよう真の解決を目指す責任があろう。

 それにしても、猫が異変を伝えて70年が近い。あまりに長い歳月を思う。

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