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2023.08.27 08:00

【殺傷武器の輸出】国会軽視は許されない

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 戦後日本が掲げてきた「平和国家」としての在りようと信頼に関わる重大な方針転換といえる。国民の代表が集う国会で徹底的に議論されるべきだ。政府・与党だけで結論を急ぐのであれば、岸田政権もまた国会軽視が甚だしい。
 政府が防衛装備品の輸出ルール見直しを巡る自民、公明両党の実務者協議に緩和策を示した。現行制度で認められた「警戒」など非戦闘の5分野に使用目的が該当すれば、殺傷能力のある武器を搭載していても輸出可能との見解である。
 2035年までを目指し英国、イタリアと共同開発する次期戦闘機を含め、国際共同開発する装備の第三国への輸出を解禁したいとの考えも提示した。
 防衛省や自民党は輸出をできるだけ拡大し、自衛隊しか顧客がない国内防衛産業を活性化させたい考えがあるようだ。東南アジア諸国連合(ASEAN)各国やインドなどを念頭に、維持管理などで継続的に関係が深まるという思惑も透ける。
 だが、輸出先で目的を逸脱して使用され、武力紛争を助長し、市民の殺傷に至る懸念は拭えない。
 国内世論も殺傷能力のある武器輸出への視線は厳しい。共同通信による7月の世論調査では「認めるべきではない」が6割を超えている。
 世論の根強い抵抗感は、憲法でうたう平和主義が大きく関わろう。かつて日本政府はその精神を踏まえた武器輸出三原則に基づき、事実上の全面禁輸を基本方針としてきた。
 安倍政権は14年にこれを「防衛装備移転三原則」に転換。安全保障協力のある国を対象に「救難、輸送、警戒、監視、掃海」の5分野に限って武器輸出に道を開いた。
 それでも共同開発・生産を除き、殺傷能力のある装備品は非戦闘分野でも輸出できないと解釈してきた。ことし4月の衆院委員会でも政府は「直接、人を殺傷することを目的とする防衛装備の移転は想定されていない」と答弁している。 
 ところがこの後、政府の見解は変容する。与党の実務者協議で機関砲を搭載した偵察警戒車や輸送艦などを例に、武器を搭載していても輸出可能と内々に説明。国民への説明もなく、水面下でなし崩し的に解釈を変えたとみられている。
 ルール緩和の議論が進む中、抑制的に運用するための仕組みづくりは低調だという。政府関係者が漏らしたと報じられた「政争の具にされるので国会の関与は避けたい」との声は理解に苦しむ。
 岸田政権は昨年末にも、「国家安全保障戦略」など3文書の改定を閣議で決定。反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有や防衛費大幅増などを正式方針とした。戦後の安保政策の大転換が、国民的な議論も合意もないまま行われたのは記憶に新しい。 
 岸田文雄首相は平和構築の重要性を説く一方、平和国家の在りように逆行する懸念が広がる政策に次々と踏み込んでいく。信念はどこにあるのか。国会、国民に丁寧に説明する責任がある。

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