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2023.07.27 08:00

小社会 植物のポートレート

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 考えてみれば不思議な空間だ。100年ほども前に採集された植物たちがポートレート(肖像写真)と題されて立ち並んでいる。それらは今も生きているようにしか見えない。県立牧野植物園で開催されている「MAKINO―植物の肖像展」は時空を超えてよみがえった植物と対面する空間である。

 明治時代、牧野富太郎青年が描いた植物図に植物学者たちは驚愕(きょうがく)した。それは科学者の目を持ちながら、一流の画工の技術を有し、さらに芸術的感性をも備えた「アート」だったからだ。

 意図は単純明快だった。植物の種の特徴を正確に捉えた絵を見せることで、誰もが植物を見分けられるようになる。雑草という名の植物はない。

 牧野博士は「学界」というものに、いくぶん背を向けていた。真正面には「大衆」があった。石版印刷機を自ら購入したのも印刷した植物図を多くの人に届けたかったからだ。

 博士は植物図と同様に植物標本の作成にも心血を注いだ。標本を撮影した菅原一剛さんは、この展覧会のために最新鋭の高性能プリンターを購入した。自らの手と目でプリントしたかった。当時の最先端技術の石版印刷機で精細な植物図が複製可能になった。そしていま標本は現代のテクノロジーと撮影技術を駆使した写真で実物に限りなく近づいた。

 「植物の美しさ」というようなものはない。あるのは「それぞれの植物の美しさ」である。植物の肖像を前に体感する。

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