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2023.06.05 08:00

【IPEF】対立なきリスク回避を

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 新型コロナウイルス禍やロシアのウクライナ侵攻で、世界のサプライチェーン(供給網)は大きく揺らいだ。その体験からも、貿易や物流の危機管理は、国際社会にとって喫緊の課題といえる。
 日本や米国、インド、オーストラリアなど14カ国が参加する新経済圏構想「インド太平洋経済枠組み(IPEF(アイペフ))」の閣僚会合が、供給網強化の協定を結ぶことで合意した。発足から1年で、具体的な成果は初めてとなる。
 IPEFは米国のバイデン大統領が提唱し、昨年5月に発足。貿易、供給網、クリーン経済、公正な経済の4分野で協議を進める。伝統的な通商交渉で中心的な交渉テーマとなる関税は含まれない。通商交渉としてはいびつな枠組みは、米国の意向を強く反映している。
 米国は国内産業への影響を懸念して、環太平洋連携協定(TPP)の交渉から離脱。関税引き下げのカードを切れない状況で、IPEFは米国がインド太平洋地域への関与を示し続けるための苦肉の策にほかなるまい。
 これでは参加国にとって米国の巨大市場への参入拡大につながらず、交渉のメリットも見えにくい。そこで交渉の「空中分解」を避けるため、供給網分野で成果づくりを急いだとも指摘される。
 具体的には、半導体や鉱物などの重要物資が途絶するリスクへの対応を強化。協議会を新設し、各国共通の重要物資で調達先を増やすといった対策を平時から進める。実際に途絶した国にはIPEFのネットワークを通じて他国が支援。供給網に関わる労働者の権利を推進する新組織も設ける。
 表面的には特定国への対抗を意図していないとするが、米国が主導するだけに、中国を念頭に置いていることは明らかだ。例えば、さまざまな先進技術に必要となるレアメタル(希少金属)の供給で存在感の大きい中国は、資源を武器に他国への威圧的な姿勢を強めている。
 日本も2010年、沖縄県尖閣諸島付近で発生した漁船衝突事件後にレアアース(希土類)の輸出を大幅に制限された。近年も、台湾産パイナップルの禁輸や、オーストラリア産ワインへの制裁関税措置を実施している。多国間で初めてとなる供給網強化に関する協定を、こうしたリスクの低減につなげたい。
 ただ、現実的な備えは必要にしても、一方では自由貿易体制を堅持する視点が重要になる。通商交渉に対立の構図を持ち込めば、IPEFの対応がデリスク(リスク回避)ではなく、デカップリング(経済切り離し)を進ませかねない。
 米中対立やウクライナ危機で、国際社会では分断と対立が深まっている。陣営ごとのブロック経済化が先の大戦につながった教訓を忘れてはならない。IPEFは11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会談ごろまでに、ほかの分野を含めた全体合意を目指す。緊張を高めない冷静な交渉が求められる。

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