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2023.06.03 08:00

【原発60年超運転】国民の不安は残り続ける

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 原発への不安が根強く残る中、東京電力福島第1原発事故後の国民的議論で導かれた「依存度低減」の看板が下ろされた。ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰が背景にあったにせよ、安全性より安定供給を優先させた格好だ。
 エネルギー関連5法をまとめて改正する束ね法「GX(グリーントランスフォーメーション)脱炭素電源法」が成立した。世界に例がない、60年を超える老朽原発の運転が可能となり、原発回帰の流れが加速することになる。
 束ね法には、再生可能エネルギーの活用に向けた送電網整備の支援強化なども含まれる。だが、最大の焦点は原発の「最大限活用」にほかならない。
 事故後に導入された「原則40年、最長60年」の規定を原子力規制委員会所管の原子炉等規制法から経済産業省所管の電気事業法に移し、経産相の認可とする。規制委の再稼働審査や裁判所の仮処分命令で停止した時間は、上乗せする形で運転を延長できるようにした。
 岸田政権は予想される批判に、事前から周到に備えていたのだろう。昨年7月の参院選後、発足したばかりの「GX実行会議」で唐突に原発再稼働の推進方針を表明。当初から国際社会の要請でもある「脱炭素」を利用した格好だ。
 経産省は原発推進派を中心とする有識者会議で手続きを進めた。政府はことし2月、原発の運転期間延長や次世代型原発の開発などを盛り込んだ基本方針を閣議決定。将来にわたり、国が原発事業を保証したに等しい内容といえる。さらに経産省は規制委事務局と水面下で接触し、法改正への地ならしも進めた。
 束ね法だったこともあり、国会でも議論は低調だった。巧妙かつ強引な進め方は、かえって岸田政権による原発活用策の矛盾を浮き彫りにしたといえる。
 一例を挙げれば、延長分に計算される規制委の審査や仮処分命令の停止期間は、問題の多い原発や事業者ほど長くなる。規制委の1人も改正内容に「科学的、技術的な新知見に基づくものではない。安全側への改変とは言えない」と反対している。そんな老朽原発が長く稼働すれば、周辺住民の不安も膨らもう。
 事故後に強化されたはずの「規制の独立性」も揺らいでいる。法案提出を控えた段階で、規制委は経産省の意向に沿うように、運転延長方針の了承を急いだ。
 改正後は経産省が運転延長の可否を、規制委が安全性をそれぞれ判断する仕組みとなるが、推進側と規制側の近すぎる関係は制度そのものへの疑念を招きかねない。
 過酷な原発事故の教訓は、何より安全性の最優先だったはずだ。岸田政権がその反省をうたいつつ、安定供給を選択したことは明らかだ。これでは国民の不安はくすぶり続けるに違いない。重要な政策の転換でありながら、国民的な議論や丁寧な説明を避けてきた付けと言わざるを得ない。

高知のニュース 社説

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