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2023.06.03 08:00

小社会 虎の巻

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 将棋ファンがある高段棋士に、こんなお願いをした。相手の指し手一つ一つに対し、最高の応手を記した虎の巻を書いてほしい―。なるほど、そんな必勝本があれば買いたい。

 棋士は答えた。「あんた、そのトラの巻がどれくらいの冊数になると思う?」「どう軽く見積もっても、丸ビルを五つも建てないと間に合わん」。丸ビルとは東京の超高層ビルのこと。棋士は、各ビルの各部屋に天井まで届く書棚を作り、びっしりと並べる規模になるとも付け加えた。

 将棋観戦記者の中平邦彦さんが著書「棋士・その世界」で紹介している。棋士の頭脳構造がよく分かる逸話だろう。それだけ多くの虎の巻を使いこなしている、と。

 将棋界に藤井聡太・新名人が誕生した。七冠の達成も含め、20歳10カ月は最年少記録。次は前人未到の八冠に期待がかかるというから、いったいどれほどの量の虎の巻を頭に入れているのか。

 鍛錬に人工知能(AI)を使うことでも知られる。AI将棋はそれこそ膨大な虎の巻を蓄積し、瞬時に引き出して最善の手を指す。学習もする。鍛えられた藤井七冠の強さはAIが乗り移ったかのようだ。

 もっとも今後の抱負を語る姿は謙虚な青年そのもの。「立場にふさわしい将棋を指したい」「(八冠は)まだまだ遠い」。若いのでこれからも多くの虎の巻を編み出すだろう。数十年後、同じお願いをして、何棟のビルが必要か聞いてみたい。

高知のニュース 小社会

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