2023.05.07 08:00
【食料安全保障】G7の取り組み具体化を
いま世界は食料危機に直面しつつあると言ってもよい。
1980年ごろから供給過剰が続いてきたが、新興国の人口爆発や産地諸国の気候変動などにより需給関係は変化した。近年は、新型コロナウイルス禍からの経済回復や、ロシアのウクライナ侵攻による穀物供給網の寸断、混乱なども重なる。
食料不足と価格上昇は特に途上国を直撃しており、世界食糧計画(WFP)は昨年7月、2021年時点で飢餓状態にある人が最大8億2800万人いると推計。ウクライナ危機でより状況が悪化すると警告した。日本で相次ぐ食品の値上げも、食料危機が一因となっている。
農相会合はこれらへの対処が最大のテーマになり、採択した共同声明では、農業の生産性向上と持続可能な農業実現を目指すとした。
飢餓への直接的な処方箋となる「生産拡大」は、農産品輸出を重視する国に不利益になるため農相会合での議論は避けられてきた。しかし今回は、「生産拡大」に近いニュアンスがある「生産性向上」などの言葉を使って合意にこぎつけ、日本政府は意義を強調する。
それは一つの成果に違いない。ただ、まだ危機感を共有したに過ぎない。重要なのは、食料増産と飢餓対策を着実に進めることだ。
中でも、最も努力を求められるのが日本だと言える。21年度の食料自給率38%(カロリーベース)はG7の中でも群を抜いて低い。声明は、途上国の農業支援も盛り込んだが、日本は大きな災害や紛争が起こればたちまち、食料安保が問題になる状況である。
国内の課題は農家の高齢化、耕作放棄地の増加など多岐にわたる。議長国としてまとめた声明を自らの重しとし、「30年度の自給率45%」などと掲げる目標へ、率先して取り組む必要がある。環境負荷の少ない持続可能な農業でも、技術面で貢献できる部分は多いはずだ。
声明は、「各国が既存の農業資源を有効活用し、貿易を円滑化しつつ、食料システムを強化すべきだ」とも提言した。
日本の立場では取り組んで当然との印象も受けるが、それだけ世界は単純ではないということだろう。特に貿易を巡っては、食料の囲い込みへ不当な輸出制限があったり、ウクライナ産穀物が陸路で流入する東欧が輸入制限したりするケースも生じている。円滑化へ、実効性のある取り組みが求められる。
侵攻で被害を受けた農業基盤の再建などウクライナ支援も打ち出された。黒海を通じたウクライナ産穀物の輸出は続いているものの、状況は不安定だ。速やかに正常化させる必要もある。